福士  総合討論とまとめに入りたいと思います。実は遠藤先生からのいくつかの質問をいただいています。質問1 から4 までは検査対象疾患の拡大に伴う、検査項目の増加と検査方法の多様化に対する、現行スクリーニング検査実施施設での対応についてです。それで質問1から4はまとめて討論したいと思います。
質問1
世界的な傾向や、新しい治療薬の導入によって、今後は検査項目は多様化するでしょう。多様化する検査項目への対処についてです。遺伝子検査も新生児スクリーニングに入ってくるでしょうし、日本の新生児スクリーニングの検査施設の質的、量的、いろいろな意味でキャパシティーを超える可能性が高くなると思うのですけれども、そのことについてご意見を伺いたいと思います。
質問2
今後、新しい対象疾患がどんどん増えていったときに、既存のスクリーニング検査施設で個別に対応することが可能なのかどうかご意見を伺いたいと思います。
質問3
今まで全く新生児スクリーニングに参加していない新規の施設が参加することについて、皆さんの既存の施設はどう対応するのでしょうか。
質問4
サンプルの仕分け、名簿の作成、料金徴収などの業務を既存の施設が行うのは業務として既存の施設の優れた能力だと思います。作業を分担するという考えについてはどう思われますか。
福士  これから新しく増える検査は自治体がお金を出して無料でやるのは見込めない、むしろ有料となると考えての質問だと思います。
作業を分ける。今やっている新生児スクリーニングのろ紙血検体は、ルーチンで、ある1カ所に来る。その事務的なところは全部やって、既存のスクリーニングはそこでやる。そこで対応できない新しいのは、もっと高度なことができるところにお願いするシステムが可能かどうかということです。今日の吉田さん、酒井さんのお話でも、年間1万以下だと、このために新しい機器を買うのはかなり効率が悪いですね。
吉田  愛知県様のポンペの検体は、現在、当社で測定させて頂いています。検体も、番号だけの情報をいただいて、番号に対しての結果をお返しさせていただいています。
先ほどの1カ月健診を意識したときに、愛知県と熊本県の距離や郵便事情を考えたとしても、実情運用できています。検査技術が高度化していくというお話の中で、特殊なスクリーニング検査のみを他施設にお願いするというのは方法論としては不可能ではないと思います。
ただ、個人としては、様々なことで病院様との連携が必要となります。事務作業だけを担当し、検査は別のところでおこなうというのは、実際の現場を考えると、なかなか不便なところも出てくると考えます。方法論を考えたときに、できなくはない。こういうことも含めて、今後考えていかないといけないと思います。
石毛  東京でライソゾーム病のスクリーニングを始めるに当たって、まずどういう形でやろうかという話になりました。その中では、受付から検査、そして報告まで自分のところでやるというのが1つ。もう1つの話としては、受付、検査報告も自前でやりますが、検査は他のところでお願いするというフォーマットも1つありました。
個人的に言えば、内容によっては、それも1つの方法だとは思っています。
しかし、業務部門の人の意見は、検査を行っていく団体としては、不完全ではないかということでした。つまり、検査だけ他でやるというのは、本来やるべき仕事をやっていないのではないかという意見です。それも1つの意見だと思います。結局、自前で装置を導入してやれる、あるいはやっていくという形になりました。
ただ、今後SCIDや他の検査について、系統の違った検査を行っていく場合、本当に自分のところで全部できるかと言われると、大丈夫とは言いがたい部分も少しはあると思います。その際には、もう少し何か検討していく方法が必要と思います。物理的な距離とか時間とかは、吉田さんがおっしゃられたように、解決は可能だと思います。データについても、完全に匿名化されていれば個人情報ではないという考え方もあるし、バラバラにした暗号で解読できないようにするということも可能なので、できないことではないと思います。
ただ、それを他のところにお願いして、他のところが検査する。それによって、今行われている公費のスクリーニングについても、いろいろ混乱を来すようであれば、ちょっと難しいと思います。そこを守るために、どうしたらいいかを考えていく必要があるでしょう。
福士  私は既存の施設でもできるとは思いますが、検査に伴ういろいろな資材と機器を整備しなけれないけないですし、受付して、検査をして、結果を評価して、報告書を出してという作業にかかわるコストを含めて、トータルでかかるコストに見合う分だけ検査施設に入るのであれば、検査施設もちゃんと人材を入れて、機器も整備していくのは可能だと思います。
今は既存のスクリーニングに関しても、自治体はどんどんコストを下げようとします。とりあえずこのぐらいできますと簡単に言うのではなくて、例えば年間何万人やるのだったら、このために事務作業で何人必要ですとか、機器もこれだけ整備しなきゃいけません、それも含めて1人当たりのコストはこのぐらいというのを出して、それで正当な費用で受けるのであれば、可能だと思うのです。
そのときにも、例えば年間1 万やる施設と、3 万とか5 万やる施設だと、コストに差が出てきます。タンデムもそうでした。そこを考えてもらえればいいと思います。余りにも検査数が少ない施設は、かなり厳しいかもしれません。少なくても必要な機器は必要だし、人も必要だしということになるので、そういう面も含めて考えていかないといけないと思います。なかなか難しいですね。
花井  今、有料を前提で、それに見合う形で人と機械を用意するというのは必須だと思います。私は札幌市衛生研究所から、北海道から委託されている検査センターに移ったわけですけれども、検査センターの体制としては、意外と手いっぱい位のカツカツの人と予算でやっているところもあります。
それと、例えば私は2年前に入ってきて、SCIDをやったらどうでしょうかと提案をしています。しかし、前からいる人たちは、それはいいけどどうやるのかという懸念がきっとあって、そこまで頭を切りかえることができないわけです。新たに生み出されるお金で、その点をどう充実させていくかが大切です。それと、さっきのどこまで自分のところでできる検査か。1 次検査はいいとして、確認検査、2 次検査ぐらいまでは何とかなるだろうけれども、次の遺伝子検査、さらに酵素活性だとかになってくると、そこまではやっぱり難しいというところがあります。
そこの部分は、薬剤師会と市衛研とで役割分担するなど、うまい話ができればいいのですが、きっとそう簡単にはいかないでしょう。
専門的で、別な知識なり機械なりが必要になる検査はどうしても必要になってくるでしょうから、その体制を作る必要があります。先生たちが病院なり大学で細々と自分たちの研究費でやられているのを頼ると、そこも負担が出てくるでしょうから、なかなか考えるところはたくさんありますね。
福士  新生児スクリーニングをルーチンベースで、システムとして動かしていくためには、特定の人に頼らずに、ある程度の地域単位でも、大きい単位でも、最後のところまで陽性の人をフォローできるシステムを作らないといけないと思います。
真嶋  昨年、一昨年あたりから改正医療法の話が出ています。大学でデータを出す。これは去年の12月から、基本的には法律の中に入らなくなってしまったわけです。今は衛生検査登録の流れがある。これからどうなるのか、しばらくは、ある程度増えていくでしょうし、そういうところの流れも見ながら対応していくことになるかと思います。
今までも「成育医療研究センターで何かやるのでは?」とはたからは見られていて、法律的に去年の12月からそれがだめということになったわけです。
逆に言えば、これから衛生検査部門でそれがとれれば、大手を振ってできるようなことになるのではと思います。成育研究所の部分が衛生検査所になるかどうかというのはまだ最終判断には至っていないんですけど、大学とかでそういうことになっていくところがこれからあるので、もう少し様子を見ていると、また変わってくるのではないのかと思います。
例えば、岐阜大学の役割とか、興味深いお話を伺いました。日本の国民は1億2500万人しかいなくて、それはアメリカの半分以下です。ヨーロッパの国々よりもちょっとは多いのかもしれないけど、割り算すると、5万とかまでいくところはなかなかないです。そうすると、1 つ1 つが頑張ってもだめなのは、数字で計算すればわかるので、そういったときにどうやってうまい仕組みをつくっていくか、これから考えていかないといけないと思います。
質問5
重症複合免疫不全症はPCR 検査、副腎白質変性症はタンデムマス、脊髄性筋萎縮症はPCR 検査など、新しい投資が必要になる可能性もあります。検査施設ごとの事情がいろいろあると思いますが、検査の集約化(複数の地域が一緒に検査をする)は可能でしょうか。
福士  タンデムマスのときも効率化の観点からそういう話があって、ある程度集約された部分は、あることはあるのです。ただ、それがいい方向で集約されればよかったけれども、どうも入札で安く受け入れる施設が多くなって、若干意図しなかった方向になっていることもあります。全く新しい対象疾患なので、それはそれでまた別の課題ではあると思うのです。
質問6
行政への要請として、新規予算の要求などでは、新規予算を期待できる状況でしょうか? どのような働きかけが有効でしょうか? 私見で結構ですのでお聞かせください。
福士  実際に検査施設にいて、どうですか。ほとんど希望なしとか。新規予算というのは要するに、新しい対象疾患をやるのに、新しく予算をつけてくれるかということですね。
花井  それはないですね。
福士  この見込みって、今のところほとんどないです。今のものも下げようというのがあるぐらいだから、難しいです。
吉田  ないと思います。逆に、私どもが有料検査で考えたいと言っても、何も抵抗はないです。
福士  日本中、どこも同じような状況だなという気がします。
質問7
最後に、今回の座談会は大変有意義だと思いますので、今回取り上げたようなスクリーニングの新しい展開に対応した全国的な技術者・施設関係者の連絡情報交換の場を継続的に設けるのはどう思いますか。皆様方はその中心メンバーになると思いますが。
福士  検査施設の担当者が集まって、新しい対象疾患のスクリーニングをテーマとして勉強する機会はこれまでありませんでした。
今日は、遠藤先生と中村先生が運営されている希少疾患早期診断ネットワークの主催でこのような機会を提供していただき、検査に直結する基礎的なところから実際のスクリーニングの経験まで、とても多くの情報を得ることができました。今後は新しいスクリーニング対象疾患に興味を持っている方や検査施設も参加していただけるように、ぜひ継続していただきたいと思います。それが今日のテーマの新しい疾患のスクリーニングを広げるきっかけの1つになると思います。
自治体主導による新規対象疾患の拡大が難しいのは今日ご出席の皆様が指摘されています。これからは検査施設レベルから、臨床の先生方、産婦人科医療機関、自治体に働きかけていくこともスクリーニングの早期開始に大切なのではないかとあらためて思いました。
花井  今回こういう場に声をかけていただいて、ありがとうございます。治療、診断の場に持っていくためには、スクリーニングを既に始められている施設が実際にどうやっているかを知ることができるのは非常に参考になりますし、これまでのノウハウなり、いろいろなテクニックがあったのを聞かせていただくことができたので、これからもこういう会を継続していただけるとありがたいです。
福士  これまで、新しい疾患のスクリーニングのお話を聞く機会があまりなかったので、技術部会のセッションを別に設けるとか、学会の技術部会の中でも取り上げることがあってもいいと思います。
吉田  もしこういう会を継続いただけるのであれば、ぜひ参加させていただきたいと思います。
福士  今日ご出席いただいた皆様には、まだまだ勉強したいことがたくさんあると思います。吉田さん、酒井さん、真嶋さんには技術者が参加するマススクリーニング学会の研修会などにいらしていただいてお話しいただく機会を作っていきたいと思います。
遠藤先生にはこのような検査技術者の情報交換の場を継続的に設けてもらいたいとお願いしたいと思います。今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。