新規スクリーニング実施への留意点
福士  現在、ポンペ病とSCIDで、春以降はLC-MS/MSで4疾患(ファブリー病、ポンペ病、MPSⅠ、Ⅱ)のスクリーニングされるということでしたけれども、いかがですか。
小川  岐阜県では、ろ紙については県から配布していただいているので、愛知県のように2枚になる可能性が大きいと思います。そこで、2枚にするに当たり、産科施設がかなり苦労された点や、トラブルなどいろいろあるかと思います。そういう事例にはどういうものがありますか。
あと、4月から3疾患追加されるということで、有料であれば今の金額にプラスするのか、そのままで行うのかどちらでしょうか。
酒井  ろ紙が2枚になることに関しては、始まる前に藤田医科大学の伊藤先生や名大の先生方が産科医会のセミナーなどで、こういう形でこういうろ紙を使ってやりますとご説明いただいたのと、配布のところで、採血する方の負担とお子さんの負担を軽減するためにランセットもつけたので、その効果もあるのかはわからないですけれども、抵抗は何もありませんでした。
料金については、最初、年間1万件の計画でこの事業をスタートしまして、現在は約3万件いただけていますので、ライソゾームの3疾患を追加しても料金はそのままでいく計画になっています。
花井  同意率が今は大体70%で、参加している産科医療機関が65%ということでしたが、残りの30%ぐらいの産科施設は、先生の考えによって参加しないということなのでしょうか。産科医会のほうでもっとプッシュするとかというあたりはいかがですか。
酒井  とりあえず今は参加施設の割合が65%ぐらいですけれども、まだご参加いただけていないところに関しては、やはり産科の先生のお考え、お母様からお金を取って検査をすることに抵抗があるというところもあります。
花井  先ほどの熊本のほうは、日本小児先進治療協議会が実施主体になっているということですが、愛知は愛知希少疾患ネットワークが実施主体で、実際の動きとしてはどういう形で何をされているのですか。
酒井  愛知希少疾患ネットワークという社団法人をつくっていただいたのですけれども、これができたのは平成30年4 月で、この事業を始めたときにはまだなかったものですから、実質的な実施主体になるところがなくて、私どもが実施主体という形になっています。
福士  今は酒井さんのところの財団が実施主体ということですか。
酒井  そうです。実施主体になっています。
福士  従来のスクリーニングに加えて、新規の検査をしているということですか。
酒井  今のところ、それで大きな支障は起きていませんので。将来的には、先生のところにお願いするのが一番いいと思うのですけれども、今のところはうちが……。産科さんと契約しているのも私どもですし、そういう意味では、我々のところということになります。
福士  新しい対象疾患についての検査の契約も医療機関ごとにちゃんとしているということですか。
酒井  1つの医療機関と全て個々に契約をしています。
福士  料金も決めてやっていると。
吉田  熊本県と愛知県とはちょっと違って、私どもは専門の先生がつくられている法人です。熊本大学の中村先生がなされている日本小児先進治療協議会、ここが実施主体で、そこから検査と事務取扱を私どもが受託させていただいています。契約書は、病院と法人と弊社の三者で、医療機関の数だけ契約書がある形になっています。愛知県では、お話をいただいたときに、愛知希少疾患ネットワークがなかったので、スタート時には検査センター様が実施主体になられているという状況かなと思います。
福士  愛知県の場合は、愛知県健康づくり振興事業団が実施主体で、有料の検査をやるという時点で、別に採血することを条件に県と市の了承は得ているということでいいのですね。
酒井  ポンペ病のスクリーニングをやりたいと最初に伊藤先生からご相談を受けたときに、先生としては同じろ紙を使いたい、費用も何とか無料でと考えられていましたので、事業団と先生と行政の三者でいろいろ話をさせていただいたのです。でも、結果的にろ紙を使わせることは難しいと。当然、費用は問題外ということになった。その時点で、県としては了解ではないですけれども、認知はしていると。
福士  この事業を愛知県健康づくり振興事業団がやることについては、県、市ともに了解済ということですね。
酒井  そうです。ですから、県の主宰する先天性代謝異常の精度管理委員会という会議が年1回あるのですけれども、その席でもこのぐらいの規模で、このぐらいのものが出ていますという報告はさせていただいています。
福士  年に1回は新しい対象疾患のスクリーニングの情報を県に提供しているということですね。
酒井  うちからではなく、伊藤先生のほうから報告する形になっています。
福士  それは、いわゆる協議会のような会ですか。
酒井  そうです。
採血ろ紙は公費ろ紙にするか別ろ紙にするか
吉田  ろ紙はどちらを使うかという話に関して、ちょっとだけ補足させてもらいます。実情は新しいスクリーニングは、今担当している地域のスクリーニング検査センターがやらないと難しいと思います。報告とか、医療機関との連携とかは各センターでないと難しい。では、公費のろ紙を使うか、別ろ紙でするかとなったときに、確かに公費のろ紙はいろいろはしょれるところ、やりやすいところがある。しかし、今後SCIDだったり、さきほどお話のあったSMAだったり、新しい項目を追加していきたいとなったときに、全て地域の施設で測定できるのであれば何も問題ないのですけれども、例えば一時期だけでもほかのところにお願いしたいということが発生した場合は、公費のろ紙だと、県外に持ち出すことはなかなか難しいと思うんですね。ですから、この点を考慮するのであれば、実は別ろ紙であったとしても、そこはメリットかなと私どもは思っています。だから、今の両方を勘案して決めていく必要があるのかなと考えます。
福士  既存の新生児スクリーニングの体制をずっと維持するのか、対象疾患がどんどんふえていくという将来的なことを考えて、有料ならば別にとることを考えてもいいのではということですね。確かに、それは十分考えられますね。
花井  逆に、別にとったほうが、自治体としては別物だから了解しますということで済ますことができますね。
吉田  おっしゃるとおりです。行政の縛りを受けないことになります。
福士  それにしても、やはり自治体とはその辺の話をうまくつけていく。難しいかもしれませんが、そこは大事ですね。そこをクリアしたら、あとは医師会とか産婦人科医会とかの関係だけなので、意外と進みやすいかもしれない。自治体がそう言っているからというので医師会にも頼みやすいですね。
SCIDスクリーニングについて
吉田  私どもは2月からSCIDをパイロットとしてスタートすることを考えているのですが、2点、アドバイスいただけますでしょうか。
免疫不全なので、生ワクチンを打つ前に見つけたり、病院に行ってもらわないといけないと考えたときに、再採血運用をやるかどうかを迷いました。熊本地域で受診してもらえればその日に結果が出せるという医療機関があったので、私どもは再採血の運用を含めた形で運用しようと思っているのですが、実際に運用されているときに、間に合わないことが起こり得ないかということが1点です。
既に同意書をつくっているのですが、先ほど教えていただいたように、重症複合免疫不全症という病気以外の疾患もさまざま見つかってくると思います。私どもは「免疫不全に関連した病気も見つかってきます」という文言を入れているのですけれども、実運用する上で、そこでトラブルになったという事例はございませんか。私どもは、まずTRECだけでいこうと思っています。
酒井  1点目の再採血をして間に合わないことがあるかについては、まだ確かなことは言えないのですけれども、今までの精検の結果などを見ていると、本当に重症のお子さんは、検査値20以下、本当にひどい子は1桁という数字があります。今のところ、そういう方は即精検になっていますので、大丈夫かなと思います。20~30は再採血していますけれども、そういう子たちは8~9割が一時的なものになりますので、そういうことを考えると、その子たちまで即精検として、病院に行ってくださいというのは、お母様の負担が重いかなと思います。海外ですと、私も聞いた話ではっきりしていないのですが、台湾は即精検値が1桁、ゼロみたいな極端なところもある。そういう心配は、私どもとしては今のところないのかなと思っています。
2点目のSCID以外にも見つかっているかに関しては、今の先天性代謝異常のタンデム検査と同じような考えになると思っていまして、タンデムでも対象疾患をいろいろ決めていますけれども、当然、同意書のほうには、おっしゃるとおり、ほかの疾患も関連疾患として見つかることがあると書いてありますので、その辺は大丈夫かなと。実際にやってみても、私の聞いている範囲では、ほかの疾患が見つかって、お母様からクレームが来たという問題はないです。
吉田  当然、要精密の連絡をするときには、SCID疑いですということでご連絡するのですね。
酒井  はい。
福士  今の再採血の話は、アメリカだと即精検のレベルともう一度採血するというのを分けて、2 段階のカットオフ値を決める州がほとんどだったと記憶しています。
初回検査して、例えばカットオフ値30以下の場合はもう一度、二重測定とかで確認するというシステムなのですか。
酒井  1回の検査で判断することはないので、2回目も同じ検体で2スポット、3スポットを測定して判断することになります。
福士  今まで日本のスクリーニングで、スポット間差による検査データの変動がありますが、SCIDスクリーニングのTRECの場合はどうですか。
酒井  TRECの場合、スポット間差というのか、SCIDの試薬自身、PCRでやっていますので、普通のタンデム検査と比べるとばらつきは大きいです。パーキンエルマーの仕様では、このキットはSCIDを見つける試薬であるので、0~10のレベルで再現性はある程度保証しますけれども、20以上とか30とかというレベルは保証できないというか確認していませんという立場をとります。
福士  これまで新生児スクリーニング検査では血清や赤血球中に含まれる成分を測定してますが、SCIDのスクリーニングでは白血球のDNAの定量なので、単純にちょっとしたばらつきとかも、普通の液体よりはあるのかなと思います。いろんな条件でCVが大きくなるというのはあり得るかもしれない。
花井  1.5ミリのパンチですよね。
酒井  はい。
花井  すごく打ちにくいのではないですか。普通、3ミリでは多過ぎるということなんですか。
酒井  これもパーキンエルマーの試薬の取扱説明にある基本的なパンチの大きさなのです。それによって試薬量も決めていると思います。
吉田  熊本では、実は自分たちで考えた方法でスタートしようとしているのですけれども、結局パンチが大きいと、PCRの阻害物質が入ってしまうんです。なので、必要なコピー数は確保できるけど、必要以上に血液由来の阻害物質を入れたくないという思いがあります。特に、パーキンエルマーのものも私どものものもダイレクトと言って、ろ紙を入れっ放しで反応させるものです。バッファー組成だったりいろいろ検討いたしました。
福士  DNAをまず抽出するというか、そのステップをやらずにやっているので、そこは従来のとはちょっと違う。
花井  抽出したものではなくて、入ったままということですね。
吉田  抽出すると時間がかかりますし、実はコストが結構かかります。