愛知県では、2017年4月よりポンペ病と重症複合免疫不全症(SCID)の新規スクリーニング検査を有料の任意検査として、公費検査とは別で行っています。本日は実施方法とその状況についてお話しさせていただき、最後に、現在タンデム法によるLSDスクリーニング検査を予定しており、検討中ではありますが、その内容も含めてお話させていただきます。
新規スクリーニングの実施方法
まず、実施方法についてです。図1 が愛知県の新規スクリーニングの流れになります。公費検査とは別のろ紙で、有料で行っていますけれども、基本的な流れは今の公的事業の先天性代謝異常検査と変わりません。検体の流れとか結果報告や精密検査も私どもから専門医療機関に紹介していますので、流れは一切変えていません。あと、名古屋大学医学部附属病院小児科、藤田医科大学医学部小児科の先生方にいろいろお願いしているのですけれども、その先生方には、専門医療機関としてと、もう1つは事業全体のコンサルタント機関として愛知希少疾患ネットワークをつくっていただいて、そこでいろいろバックアップしていただいています。
ポンペ病検査についてはKMバイオロジクス社(KMB)にお願いしていますので、その関係もあって熊本大学医学部小児科の中村公俊先生の一般社団法人 希少疾病早期診断ネットワークにもコンサルタントとして契約・協力をいただいております。
新規スクリーニング用の配布資材
新規スクリーニング用として産科医療機関に配っている資材は次の通りです。
① 検体郵送用封筒(先天性代謝異常等検査兼用):郵送用の封筒です。公費用ろ紙と兼用になっています。どちらの検体を入れてもいいことにしています。
② 新規スクリーニング説明書兼同意書(ピンク):公費検査用の同意書と区別しやすいように、色をピンクにして、はっきりわかるようにしています。
③ 新規スクリーニング検査用採血ろ紙(ピンク):図2が実際に使用している専用ろ紙です。公費用と区別できるように色を変えて、2スポットだけでいいので、マルの部分も2 つだけにしています。「予備」と書いてあるところは、1、2 のマルを失敗したら、ここに採り直してという意味でつけています。
④ 採血穿刺器具(セーフティランセット)
⑤ 新規スクリーニング検査用リーフレット:先ほど吉田さんがご説明された熊本県のものを愛知県用にしたものです。
⑥ 採血ろ紙乾燥台
⑦ その他(説明用DVD、実施説明書):説明用DVDは、産科医療機関から画像で簡単にわかるようなDVDが欲しいということで、先生方に監修していただいてつくったものです。実施説明書は、先ほど吉田さんがおっしゃった熊本のものを参考に愛知県用につくったものです。以上のものを配布しています。
妊婦への説明と同意取得方法
実際に産科施設でどのように説明されているか、私どもでは把握していないのですけれども、こちらの想定としては、リーフレットとDVDを使って、事前に母親学級などで追加の病気の検査も受けられますという説明をしていただきます。
また同意取得については、出生後に新生児科医もしくは助産師が説明書兼同意書を使って説明していただけているのではないかと思っています。
ちなみに、署名していただいた同意書については、うちでは回収していません。各分娩施設で保管していただいています。私どもは、ろ紙が届いたら同意がとれているという考えでやっています。
検査結果報告
結果報告につきましては、公費検査と新規検査で報告書、郵送用封筒の色をそれぞれ分けています。公費検査は1週間分を翌週の金曜日に、新規検査は翌々週の水曜日に一斉発送しています。今はポンペ病をKMBにお願いしていますので、少し遅れぎみになっていますけれども、今のところ「遅い」という苦情はありません。
SCID・ポンペ病のスクリーニング検査について
<検体受付から検査開始までの流れ>
図3は検体受付から検査開始までの流れを示したものです。公費検体も新規スクリーニング検体も同じ封筒で届きます。開封後にそれぞれの検体に分けて、内容をチェックして、各検体にそれぞれの検体番号をナンバリングします。公費検体と新規スクリーニング検体は別システムで管理しているので、その後、各担当のところで台帳に記入して、それぞれの番号でそれぞれのコンピューターに属性入力して受付を行います。
<検査実施の流れ>
私どものところでやっているのはSCID検査で、ポンペ病検査はKMBに委託しています(図4)。SCIDの検査担当者は現在1名で、年間28,000件ぐらいを検査しています。1日のスケジュールは図4のような時間配分になっています。
ポンペ病のほうは検体発送が火曜日と金曜日の週2回で、検査結果は翌週木曜日に一括報告していただいています。
SCID検査の作業工程は、①試薬の調整 ②パンチアウト ③DNA溶出 ④PCR増幅 ⑤測定となります。時間の目安としては作業時間が約70分、インキュベーション時間(DNA溶出、PCR増幅)が210分ありますので、全工程で5時間ぐらいの検査になります(図5)。
使用機器としては、試薬調製のためのPCRキャビネットとチューブ遠心機、プレート遠心機とDNA溶出とPCR増幅のためのサーマルサイクラーを2 台使用しています。あとは専用の蛍光リーダーが必要になります。1プレートについて78検体測定できるので、サーマルサイクラーが2台あれば2プレートで同時測定が可能になります。
<カットオフ値>
 2017年4月1日から2018年12月31日までに44,484検体やりまして、TRECの測定結果として平均値149.7 copies/µL、中央値114 copies/µL、カットオフ値≦30 copies/µLとなっています。
ポンペ病についてはKMBに測定していただいたものですが、平均値34.0pmol/hr/disk、中央値32.3 pmol/hr/disk、カットオフ値≦3.5 pmol/hr/disk となっています。
SCID スクリーニング実績
次に、SCIDスクリーニングの実績について説明いたします。
<新規スクリーニングの受付状況>
SCIDのスクリーニングは2017年4月から開始しました。愛知県内では分娩施設が155施設あります。開始当初の4月には65施設に参加・ご協力をいただいて、967件の検査数がありました。全公費検査数が4,617件であったので、全体の20.9%の受検率となりました。同意率は、協力分娩施設で生まれた方が2,074人いて、そのうちの967人なので46.6%になります。
2017年6月と翌年6月に再度、協力してくださいという依頼文書を出しました。
2018年12月には、参加施設は155施設のうち100施設になり、受検率が全体の50%ぐらいになりました(表1)。
< SCID 再採血・精密検査の判定基準>
再検基準は現行のスクリーニングと同じく、カットオフで判定をしています。
2017年4月当初から半年はカットオフ30 copies/µLでやって、30 copies/µL以下の場合は全て即精検という形をとっていました。しかし、それだと精検率がかなり高くなるため、先生方に精検率や精密検査の結果などを考慮していただいて、2017 年10月からは再採血基準値を設けました。カットオフ値は同じ30 copies/µLで、20~30 copies/µLの間を再採血とし、即精査は20 copies/µL以下でやっています(表2)。
ポンペ病のほうはKMSにお願いしていて、3.5 pmol/hr/disk のままで変動はありませんでした。
<再採血と精密検査の状況(表3)>
 ポンペ病は、先ほど吉田さんからご紹介があったとおり、再採血率が0.11%、要精密率は0.05%になっています。
 一方、SCID では基準値変更前は、再採血率が0.18%、要精密率が0.37%でしたが、変更後は再採血率0.90%、要精密率0.12%となっています。0.90%というのは、かなり高い再採血率ですから、今、先生方にカットオフの検討をお願いしています。現在は30 copies /µLでやっているのですけれども、海外では20とか25とか、かなり低目のカットオフが多くなってきているので、そのあたりで先生方にご検討いただいています。
< SCID スクリーニングの精密検査結果>
表4 は2017 年度のSCID精密検査の結果です。ポンペ病は、2017 年度は3 名の方が精密検査になったのですけれども、特に患者さんはいませんでした。
SCIDは、変更前、変更後を含めて年間48名の方が精密検査になりました。その中で、Down症候群とか心疾患とか消化管奇形など、21名の方は何らかの基礎疾患がある方で、基礎疾患のない方が27名いらっしゃいました。先天性心疾患があった3名のうちの1名の方がDiGeorge症候群の診断になっています。もう1人は血小板減少症の方で、Wiskott-Aldrich 症候群の診断と聞いています。
基礎疾患なしの1名の方は、名古屋大学でフォローしていただいています。Tリンパ球が1500 /u未満とナイーブT細胞の割合が50%以下をスクリーニング陽性として挙げているのですけれども、既知のSCIDを網羅した遺伝子解析を行っても原因がわからないそうです。この方の場合、私どもでもTREC検査のフォローをしているのですが、ずっと低値のままです。先生にお聞きしたところでは、予防的な抗菌薬の投与とか、BCGの接種は避けるなどの対処をしているとお聞きしました。
タンデム質量分析計によるLSD スクリーニングについて
平成31年4 月より、事業団施設内でポンペ病とファブリー病とムコ多糖症Ⅰ・ⅡのLSD 4疾患についてタンデム法を用いたスクリーニング検査の実施を予定しています。
パーキンエルマー社の試薬を用いたタンデム法です(図6)。作業工程は①パンチアウト ②溶出・反応 ③反応停止 ④抽出 ⑤分離 ⑥有機層分取 ⑦乾固 ⑧⑨再溶解の9工程です。②溶出・反応を除いた作業時間は80分ぐらいですが、溶出・反応に18 時間かかるので、結果が判明するのはかなり遅くなって、当日受付したものは翌々日ぐらいに結果が出ることになります。検体数が少なければ、昼にはタンデムがかけられますので、1検体4分として、50~60件でしたら夕方までには出るかなというところです。
使用する機材としては、振とうインキュベートのときに「パーキンエルマー製のインキュベーターシェーカー」を使用します。反応停止のときは、しっかり混ぜるようにという指示があるので「電動ピペット」で20回ぐらい混ぜます。その後に、遠心分離は遠心機でやります。窒素乾固がありますので、キャビネットと窒素発生装置、乾固装置を用意しました。
タンデム測定のLC-MS/MSの条件は表5のとおりです。ポンペ病、ファブリー病、ムコ多糖症Ⅰの3種類をNeoLSD MSMS Kitで検査します。ちなみに、今回は検査しませんが、このキットであとはニーマンピック病やクラッベ病、ゴーシェ病の検査もできます。ムコ多糖症Ⅱ型は入っていないので、MPSⅡ特注試薬を使用します。
2019年度で年間約28,000~30,000 件の検体数を予定しているので、検査担当者としてSCIDが1名とLSDが1名で検査していく予定です。LSDは反応が18 時間かかりますので、1 日目の夕方にパンチして酵素反応を開始し、2 日目の朝10時に停止して、昼過ぎにタンデム測定にかけます。そうすると、検体数によりますけれども、3 日目の朝に結果が出るというスケジュールになると思います。
LSD スクリーニング検討状況
パーキンエルマーの基準では、試薬が違うものについては別々に測定するのが基本とされていますが、同時測定もできるということなので、それぞれ単独に測定する場合と同時に測定する場合について比較検討しました。 
3plex(ポンペ、ファブリー、MPSⅠ)は1つの試薬でやりますので1系統と、MPSⅡの2枚のプレートで、それぞれ単独ではかったものが単独測定法、同時測定法としては、酵素反応は別々で行って、反応停止後に混ぜたものを同時測定法①、反応停止して抽出まで別々にしてから混ぜたものを同時測定法②としました。②は真嶋先生がご検討された方法だと思いますけれども、この3つを比較してみました(図7)。
表6 は、コントロールによる比較です。3plexが単独測定で、mix①、mix②が同時測定です。同じように各疾患で比較したのですけれども、平均値は大体同程度の結果になっていて差はないと思います。
CV値に関しても、Low(Plex-L)のところがゼロベースなので結構きつい値ですけれども、気にしなくていいかと思っています。Plex-MとPlex-Hを見ると、ある程度の数値が出ていますので問題はないかなと思っています。
4plex同時測定のときのクロマトグラムの結果も、1 検体4 分の測定系で検出はできており、分離も特に問題はないかなと考えています。
日内再現性と日間再現性についても比較検討してみました。ちょっと大きいと思わないでもないですけれども、日間のほうでも許容範囲かなと考えています(表7)。
新生児検体を同じような3つの方法で測定したのですけれども、特に差があるようなことはありませんでした。
単独法と同時測定法の両者の測定値を比較しましたが、単独法も同時法も特に乖離もなく、相関係数もかなりいい数値で出ていました。これらの結果から、私どもとしましては反応停止後に混ぜて測定するという方法(同時測定法①)で、次のステップのデータ収集を進めていきたいと思っています。
今後の予定・検討課題について
  • LSD4 疾患については、2019 年4 月開始に向けて同時測定法で新生児の検体を測定し、カットオフの設定を行う予定にしています。
  • SCID 検査については、TREC カットオフ値の再検討を行う予定です。
  • SCID 検査については、現在、TREC のみを測定していますが、パーキンエルマー社からKREC 測定も同時測定できるキットが出ていますので、その辺も検討していきたいと思っています。
以上です。