現在の難病治療などにおける費用対効果について
福士  これまで実際にスクリーニングを実施している施設でも、それぞれ実施方式が異なり、採血もルーチンの新生児スクリーニング検体を使う施設と新たに別にとる施設があります。そのあたりも含めて最後に討論したいと思います。
現行のスクリーニングで1次検査、2次検査くらいで終わっていたのが、2次検査が現行の方法とは違う、遺伝子レベルの検査になっていることが増えています。新生児スクリーニングをしているのは全国で38検査施設ですけど、それも年間検査数が7000 ~10万位までとかなり差があります。そういう意味では、新しいスクリーニングを始めるときに、先ほど遠藤先生が言われた効果的な治療というあたりも考えながら、進めていかないとなりません。
遠藤  費用対効果について追加します。
治療している専門医の側からの費用対効果で何が問題になっているかというと、PKUのときと違い治療費がすごく高いということです。新しく見つかってくるライソゾーム病ですと、造血幹細胞移植や遺伝子治療ということになります。これには莫大な費用がかかってきます。
アメリカやイギリスでは、「1 人の人が医療によって完全な1 年間を過ごすための医療費は幾らなら妥当か?」という公衆衛生学的な調査が行われています。イギリス人は非常に少額で500万円位、アメリカ人は1500万円位まではよいのではという結果が出ています。つまり、それを超える治療費で治療される病気は、治療しても意味がないのではないか、ややもするとそういう議論につながっていきます。
フェニルケトン尿症ではスクリーニングの費用対効果がいいという以前の計算とは全く違う次元になっています。それが新しい議論だと思います。
確かに、ムコ多糖症治療薬の治療制限をしている国は増えています。ただ、スクリーニングする立場からすれば、難病の患者さんを早く見つけて、治療薬があるのなら早期に治療すべきです。治療薬のお金を誰が払うか、また別のレベルで議論すべきと考えています。だから、費用対効果についての議論は今後もさらに検討すべき課題と思います。
真嶋  例えば、台湾でムコ多糖症の新生児スクリーニングをやっています。最近聞いた話では、5歳までは治療するけれど、5歳以降はもう治療しないとか、ムコ多糖Ⅰ型でも、費用対効果の算定根拠として、移植までは入るけれど、酵素はそれから除外するとか、いろいろな計算があるようです。特に、新しく出てくる治療法をどう捉えるかということで、治療法であればコストがかかるというのも事実です。お話を伺っていて、すごく難しいなと思いました。
遠藤  ある意味、科学の進歩と人のお金の使い方というすごく大きなテーマです。だから、私のような一専門医の立場から言えば、そこに治療薬があって、患者がいたら治療しますよという原則で対応していくのが一番間違いないだろうと思っています。