検査結果の産科医療機関等への報告のタイミング
福士  ライソゾームスクリーニングでは日本で一番の歴史を持っているKMBさんと熊大の2016~2018 年の3 年間のデータを報告していただきました。
花井  細かいところを教えていただいてありがとうございました。これからやろうと思っている我々にとってとても参考になりました。
幾つか教えていただきたいのですが、報告書が3パターンあって、公費のものが今までどおりで、それに加えて緑色の報告書と黄色の報告書があると伺いました。白(公費)と緑(有料)の報告書は同じタイミングでお返しして、黄色(パイロット)は数日遅れてお返しするということですね。これは将来的に一緒に送ることはお考えですか。
吉田  端的に言うと、弊社で検査したものは全部同時に送っています。大学に測定をお願いする部分は、どうしてもタイムラグが出るので、別々になってしまうという状況です。
花井  今後吉田さんのところで測定するようになったら、全部一緒にお返しする形になる方向ですか。
吉田  実は、2019 年2 月から熊本ではファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病、MPSⅠ、Ⅱを弊社で担当します。それに加えて、熊大でSCIDと低ホスファターゼ症のパイロットをスタートすることになりました。ですので、公費とライソゾームの5項目は同時で、パイロットの分は同じようにちょっと遅れて返送ということになります。
産科医療機関への説明
花井  この検査を導入する際に産科医療機関に出向いて説明したというお話を伺いましたが、実際にどのくらいの施設に出向かれたのでしょうか。
吉田  検査自体は2006年からスタートしているので、現場の方々も比較的ご理解が早く、説明資料を郵送してわからなければ伺いますというやり方にしています。熊本県には44施設ありますが、前述の項目を2019年2月からスタートするにあたり実際に訪問したのは10施設なかったと思います。
ただ、私どもは福岡地域もお手伝いさせて頂いており、140ぐらい施設がありますが、2019年4月からファブリー、ポンペ、ゴーシェ、MPSⅠ、Ⅱを有料検査でおこなう予定で、そこは比較的多く回らないといけないかなということで頑張っているところです。
花井  大変ですね。
遺伝子検査について
花井  これはちょっと確認ですが、次世代シーケンサーで遺伝子解析して、その結果をご報告しているというのは、吉田さんのところでこれを解析されているということでよろしいですか。
吉田  この方法は、熊大と弊社が共同研究の契約を結んでいまして、その中で確立した方法になります。実際の測定は熊大の中でなされています。私は共同研究の担当者ですのでデータが匿名化された状態で確認させて頂いております。ですので、正確には熊大がなされているということですね。弊社がやっているということではありません。
福士  次世代シーケンサーで精検に来た方で、もし全員にやるとしたら、1人当たりどのくらいの時間がかかりますか。
吉田  熊大のほうには、当然スクリーニング・ポジティブになった検体が来るのですが、福岡地域のものも来ます。実はそれ以外にも、中村先生がライソゾーム病研究をなされているというのは皆さんご存じなので、ハイリスクの検体も来ます。シーケンサーは月に1回ぐらいで回していまして、1回に48サンプル測定できます。ゴーシェ病の場合は、PCRが1 個ですけれど、これが例えばポンペ病になると遺伝子サイズが大きいので3 領域に分けることになります。ですので、ポンペ病をお1人はかるのに3サンプル(カウント)とってしまいます。
測定自体は、プレパレーションから考えると、機械にかけるまでが最短で2日。測定者の方の就業時間もあるので、3日間ぐらいかけて機械にかけます。機械は24時間近く回ります。解析も測定が終わった後自動でおこなわれるため、検体数にもよりますが、機械にかけた後24時間後ぐらいにデータが出てきます。そのデータを見て、さっきの表に直すという方法です。
福士  代謝異常関係で、次世代シーケンサーで受けてくれる日本の研究施設は今、どのぐらいあるのですか。
吉田  岐阜大学の深尾班がなされていたかと考えます。
福士  あれは、どちらかというとタンデムマスというか新生児スクリーニング対象疾患ということになっていますね。それ以外はどうですか。
吉田  いかがでしょうか。このやり方自体は発表させてもらっていますし、次世代シーケンサーを使われる方であれば、事前のlong-range PCRの条件を探す手間が少しかかりますが、別に難しいことではないです。ただ、ルーチンでされているところはあまり聞いたことがございません。ホットポイントだけを確認するというのは比較的あるかもしれないと考えます。
真嶋  例えば、公益財団法人かずさDNA研究所の小原先生のところはどうやられているのでしょうか。
吉田  直接にお聞きしたことはございません。テクニック的には何も難しくないので、できると思います。ただ、問題はコスト面のことで、シーケンサーは私どものやり方だと48サンプルなんですけど1 回、回してお幾らなんです。1サンプルでも48サンプルでも同じ。だから、検体数が集まって回さないとペイしない。熊大は現在、研究費でされている状況です。
福士  かずさは、千葉・埼玉のLSDスクリーニングの1次検査のほうもやっているので、精検は真嶋先生にお願いするのですか。
真嶋  私は基本的にはノータッチですけど、かずさはかずさで質量分析法で測り、その後、当然ですけどpseudodeficiencyが出てくるので、そこは自分でやっていて、それが全部次世代シーケンサーではなかったと思います。詳細はわからないです。
吉田  さきほど、ポンペのpseudodeficiencyの話で先生から発表いただいたように、確かに一次検査のところできれいに分かれれば、お母さんにご心配かけることもないし、そちらの方が望ましいと考えているのですが、実際担当させて頂いている地域のスクリーニング検査業務を行う中で、前半でお話したような大量の検体を、決められた期限までに確実に完了、報告する必要があるということ、また精密検査が受入れが可能な数で運用できているということより、4MU法を採用しています。タンデムマスでやるよりも広目にとっている可能性はあるというのは認識しています。pseudodeficiencyの疑いのある検体については、前述のようにpseudo変異以外に何が乗ってくるかが重要ですので精密検査内で確認して運用しているというのが実情です。
新規スクリーニング実施に向けてのポイント
花井  まだ我々はこれから始めようか、立ち上げようかというところなので、最初のいろいろな連携のところの準備だとか、実際にでき上がった資料はこれから参考にさせていただきたいと思いました。お聞きしたいことも山ほどあります。
まず、ろ紙血は新生児の残余を使ってできるというのはかなり楽ですね。そこの部分の交渉のハードルは、実際にどうだったのですか。自治体との関係かと思うのですけれども。
吉田  おっしゃるとおり自治体との関係性だと思います。2006年のときだったと思うのですが、私、当時社内別部署にいましたのでよくわからないのですけれども、熊本県の場合は行政と熊大の遠藤先生、現在は中村先生と、私ども検査機関との関係性が良好であったことが一因かと考えます。また今でもいい関係性でやらせていただいています。
花井  先ほど産科を回られたということでしたが、それ以外に逆に、小児科や産科などを一堂に集めた啓発はなさったのでしょうか。
吉田  中村先生などがセミナーや勉強会を開かれるのですが、そこには、例えば産科の看護師さんとかが来られることは滅多にないんです。おっしゃられるように、集まっていただいて説明するのが非常に効率的ですが、その時間はなかなかとれない、非常にお忙しいので、困難かなと思っています。
この事業を始めるときのもう1 つのキーポイントとして、各地域の産婦人科医会や産科の助産師さんのほうへ、こういう検査をこういう意義があって、やらせていただきたいということをまず相談に行きました。「この費用ではお母さんは負担できないよ」というお話を受けたこともありました。ですので、地域の産婦人科医会等のご意向を最初にお聞きしたというのが一番大きいです。検査項目を追加するときも、値段が上がりますがどうでしょうかとお伺いをたてて、お母さんにこの値段だったら負担いただけるという合意をいただきました。産婦人科医会に、可能であればこういう形でやるのでご協力をお願いしますという流れをつくることが大事かと思います。
花井  産科医会の理解というのは、採血の場面だとか、ろ紙を別にするかしないかというのが一番大きいところだと思います。
吉田  あと、当然ご参加頂く産科医療機関は大事なんですけど、実際に患者を診るのは小児科なので、そこも確実に押さえることが大事です。
スクリーニングの検査スケジュールについて
花井  検査は、5項目を4プレートぐらい可能ということでした。この時間の範囲で4プレートを5項目やったとして、タイムコースみたいなものは、例えば順番にとか、5 分置きにとか、すごく細かく設定することが必要ですか。
吉田  検査担当者たちは気にしていますが、合成基質を入れて、3時間後に反応停止するのですが、1分短い、1分長いというぐらいのずれは大丈夫です。
花井  反応停止後は、すぐはからなきゃだめとか、1時間以内にとかいうのはどうですか。
吉田  大丈夫です。各プレートにスタンダードを全部入れていますし、QC検体も入れているので、実運用に耐えています。
花井  そうすると、ピンポン鳴りながら、どんどんやる必要はないということですね。
吉田  はい。現状は熊本だけの16,000検体なので、多い日で1項目2枚ですね。ただ、この4月からは福岡の検査も入ってきますので、そうすると、5~6万検体近くになる。バックアップの人員がもう1人必要になりますが、多分大丈夫だろうと考えています。これからお話しいただく愛知県の検体はポンペだけでして、混乱を避けるため担当者をもう1人別に設定していました。つまりライソゾーム検査で2名担当してもらっています。
花井  QC検体はCDCのものですか。
吉田  違います。こちらでつくったものです。
花井  専用のものがあるのですね。
吉田  そうです。
採血用ろ紙について
福士  採血用のろ紙を従来の形から新規検査項目を追加したものに変更するときの自治体との話し合いはいかがでしたか。自治体から委託されるときに様式が決まっていると思いますが、それを追加できるということは1枚で済むので非常にいいのですが、面倒な話はなかったですか。
吉田  熊本地域のものについては、我々がこういう検査をさせていただきたい、ろ紙をこういうふうに変更させていただきたい、こういう〇のつけ方で現場にアナウンスさせていただきたいというようなお伺いを毎回立ています。今まで難色を示されたことはございません。
福士  実際に作成するのもKMBでやっているのですか。
吉田  私共にてろ紙業者へのドラフトの作成依頼や見積りなどを含めてやらせてもらっています。
花井  アドバンテック東洋(株)に特注しているのですね。
石毛  ろ紙の件ですが、公費のスクリーニングも東京は違ったレイアウトのものでやっています。ろ紙そのものはアドバンテックのものですが、それ以外の部分は印刷業者にお願いして、アドバンテックから納入されたろ紙を確保してもらう形にしています。今度の新規の項目の検査についても、公費と同じものを使えれば一番楽ですが、今のところ、なかなかそこまで至っていないので、別のものにしようと思っています。現在公費で使っているものの色を変えて、お題目を変えた形にしようかなと思っているところです。
福士  この後酒井さんにお話しいただく愛知県のろ紙はちょっと違うので参考になると思います。
花井  検査用紙は全面がろ紙ですか。下の部分だけですか。
吉田  上は台紙で、バーコードのあたりから下がろ紙になります。
福士  札幌市のように自治体直営でやっていれば、実施要領を変えるだけで済むのですが、委託されてやっているとなると自治体との交渉をまずクリアしなければならないというのが1 つありますね。ふだんから良好な関係を保つというのはなかなか……。
酒井  産科さんは手間をかけるのを非常に嫌がります。ですから、こういう細かいチェックで苦情などがあると大変です。
吉田  導入するときに、先ほど示したような資料と、記入見本としてラミネート加工した検査用ろ紙を現場に置いてもらうように配りました。実際に面倒くさいとおっしゃる方はいらっしゃると思いますが実情運用できています。
酒井  あと、産科さんがつけ忘れるということがちょっと気になります。
吉田  書いている内容がはっきりわからないときや、ろ紙の血液のつき方が悪いときなどがあった場合は、こちらから毎回問い合わせをしています。変更した直後はやはり多いですね。