ファブリー病古典型では症状の出現は幼児期
遠藤  古典型の患者さんは、男の子で6 人見つかっていますが、治療をしているのは何人ですか。
中村  2 人が酵素補充療法を始めています。
遠藤  広島と熊本の患者さんですね。熊本の人は何歳から始めましたか。
中村  6 歳になった去年から始めたところです。
遠藤  ほかの4 名は、どうされているのですか。
中村  それよりも後に見つかっている方です。
遠藤  年齢がまだ5 歳にいっていない。ということは、新生児期に見つかった人を注意深く見ていくと、幼児期の臨床症状の出現から、5 歳ぐらいが治療を始める1 つの目安になるということですね。
中村  痛みを本人が自覚して、繰り返し訴える年齢が1 つのポイントでしょうね。
遠藤  それよりも早くから痛みはあるのでしょうけどね。
中村  そうかもしれません。
治療で痛みは消えるのか?
遠藤  治療で痛みはちゃんと消えるのですか。熊本の例はどうですか。
中村  これまで1 年近く治療を行って、普段の痛みは消えたけれど、発熱時の痛みは残っているようです。
遠藤  なかなか難しいですね。痛みが消える人もいれば、消えない人もいるということですか。
中村  数年の経過を見ていかないとわからないのだと思います。
大橋  痛みに対する効果は、他覚的ではないので難しいと思います。リプレガルの最初の承認のときのエンドポイントは痛みの改善だったので、ある程度は効果があると思うんですけれども、痛みは評価自体が結構難しいので、有意な、少なくとも全くゼロになることはなかなかないので、難しいですね。痛いと、すぐカルバマゼピンを出してしまう場合も多くて。
遠藤  井上先生のところは、臨床症状のあるような人はいますか。
井上  いないです。大きい子でも5 ~ 6 歳になっていますが、幸いというか、何もなく、元気です。
遠藤  それはいいですね。古典型の変異がある人ですね。
井上  半年に1 回、来院してもらってはいますけれども、今のところは何もないですね。
治療の開始時期をどうすべきか
遠藤  スクリーニングの実施に伴う問題点、課題があるのではないかというのは、中村先生からも話が出ていました。優先順位といいますか、井上先生のご経験から見て、どの辺が一番問題ですか。
井上  僕は、「治療の開始時期をどうすべきか」というのが重要な課題であると思います。
遠藤  見つかった後での治療の開始時期。
井上  基本的には、症状が出現した時点で治療開始となると思います。もちろん、痛みはわかりやすい症状でしょうけれども、腎臓に関していうと、先ほどもありましたように、蛋白尿が出たら、かなり臓器障害は進んでいるということなので、では、早期に腎生検をするかというと、症状も蛋白尿も出ていない子どもの腎生検が本当に許されるのかという議論も実はあります。
遠藤  大橋先生、ファブリーの腎生検を5 歳ぐらいでやったという話は聞いたことないですか。
大橋  ベルゲン大学のCamilla Tøndel 先生のところでかなり早くやっています。
遠藤  窪田先生が北海道にいた当時、4 ~ 5 歳でバイオプシーをした例があったと聞いています。
中村  私も聞いたことがあります。家族例で古典型だったから、治療を始めた。
遠藤  バイオプシーをしたら、糸球体に変化があったという話で、それは思い切ったことをされたなと、その当時は思ったのですが、今の話を聞くと、4 ~ 5 歳で腎臓に変化が出てきているというのは、本当の変化はもっと早いのでしょうね。Camilla Tøndel 先生の最低年齢は7 歳ぐらいでしたか。それほど小さくはなかった記憶です。2 ~ 3 歳という例は記憶にないですね。
中村  2 ~ 3 歳ではなかなかできないですね。
遠藤  基本的にファブリー病のスクリーニングの成果は上がっていると考えてよろしいですか。
井上  先日も、ある地区の助産師さんから、ぜひそういった話を聞きたいという問い合わせがありました。ファブリー病の認識がまだ広がっていないので、地域の保健師さんや助産師さんなどいろいろなところで啓蒙活動をしていきたいと思っています。保健師、看護師、助産師の力は重要だと思います。
遠藤  中村先生、成果は上がっていますか。
中村  古典型の患者さんに早くから治療を導入するということは、コンセンサスが得られていると思います。それに貢献するという意味で新生児スクリーニングは必要だと考えています。
スクリーニング陽性症例の臨床、診療が新しい段階に入った
遠藤  余談になりますけど、ウィルソン病は何歳から治療したほうがいいと思いますか。中村先生も随分ウィルソン病を診ていますね。
中村  先日、多分ウィルソン病という11 歳の子が、初診で外来に来ました。肝不全が非常に進んで、ひょっとしたら急に悪くなって透析、移植になるかもしれない。うちで一番早く移植したウイルソン病の男の子は7 歳の時に肝硬変が出てきたから、小学校に入ってからでは遅いだろうと思います。
遠藤  ウィルソン病の治療開始は3 ~ 4 歳かなと思います。何でそういうことを言うかというと、ウィルソン病の新生児スクリーニングは世界各国で随分研究されて、新生児スクリーニング、優先順位1 位とみんなが考えているのです。それは今言ったような症例が登場するから。でも、見つけてすぐ治療するわけではないという意味では、ファブリー病も一緒なのです。生まれてすぐ治療を開始しないといけない疾患だけがスクリーニングの対象になるというのではなくて、ウィルソン病とファブリー病の治療開始年齢とか、見逃したときの影響とか、悪くなって病院にくるときの様子から考えると、余り変わらないのかなという気がします。
私も今、中村先生や井上先生の話を聞いて思ったのは、今では毎年4 ~ 5 歳の人が再来院されてくるわけですから、ファブリー病の場合はスクリーニング陽性症例の臨床、診療が新しい段階に入ったのではないかと思います。