ファブリー病の早期診断のヒントになるのは?
遠藤  発汗障害とか知覚異常が診断のヒントになることは多いですか。
大橋  いろいろなパターンがあります。最近はファブリー病の認知度が上がってきたので、例えば、手足痛や被角血管腫でファブリー病を疑う先生がいらっしゃいます。そうした場合、10 代ぐらいで診断がつくことが多いです。
遠藤  大橋先生のご経験では、診断あるいは酵素補充療法開始例で一番若い患者さんはいくつ位ですか。
大橋  家族歴のある方は、ご家族の希望によって早く診断しますので、早く見つかるケースもあります。一番早い診断は1 歳位でした。家族歴のない患者さんですと、診断されるのは早い人でも10 代後半位だと思います。
遠藤  1 歳の人の診断は酵素検査による診断ですか。
大橋  そうです。
遠藤  福岡県や熊本県では家族検索をされていますね。
井上  福岡大学では、新生児マススクリーニングでの精査で来院し、家族歴を聴取したところ、「実は原因のわからない心臓の悪い人が家系にいるんです」ということで、家系検索でその方がファブリー病だったという家系を経験しました(講演3の図)。新生児スマスクリーニングを始めてまだ数年なので、マススクリーニングで発見された小児に、明らかな症状はまだ出てきていませんが、眼科的な所見や皮膚症状、手足痛などは今後も注意深く観察していくつもりです。
遠藤  中村先生のところは、ハイリスクスクリーニングを熱心にやられていますね。
中村  臨床症状からファブリー病を早く見つけるというのは、低年齢では限界があるのかなと思っています。私たちが依頼を受けた中で一番早かったのは、8 歳の古典型の男の子です。その子は、痛みがあって、依頼してきた先生もファブリー病を以前に診たことがあって、この痛みは怪しいのではないかということで送ってこられました。ファブリー病を一度診たことがあると、痛みについては典型的な部分がありますので、早く診断に至ると思います。こうした神経症状、痛みを主訴に送ってこられるのは古典型の男性の方が多く、中学生から20 歳ぐらいにかけての方が多かったと思います。
遠藤  やはり痛みですね。発汗障害はいますか。
中村  それだけでファブリー病にはなかなか行けないと思います。古典型で診断された方で、発汗障害のある方は多いですけど、それが病気だという意識は乏しいと思います。
大橋  うちの患者さんで、きょうだい例で第1子を2 歳ぐらいで診断しましたが、「手足が痛い」とも言わないし、「汗もかきます」といっていました。結果的にファブリー病だったのですが、次子が生まれて、その子はファブリー病ではなかったのですけれども、「赤ちゃんはこんなに汗をかくものなんですね」と言っていました。なかなか気が付かないようです。
ファブリー病の治療開始の時期・目安
遠藤  治療の開始がもう1 つのポイントだと思いますが、大橋先生がご存知の症例を含めて、早期治療は何歳位から開始するのでしょうか。
大橋  イギリスの治療ガイドラインは結構厳しいもので、かなり症状が悪くならないと酵素補充療法を開始しないという方針です。アメリカと日本はそれよりは早く、男の子だったら診断がついたらなるべく早く、女の子だったら20 歳を過ぎたら症状がなくても考慮するという考えです。
遠藤  男の子の場合も女の子の場合も、メジャーな臨床症状が出たら治療を開始するという考え方だと思いますが、メジャーな臨床症状とは、まずどの症状でしょうか。
大橋  まず四肢痛でしょうね。
遠藤  女の子では腎機能低下が進行している可能性があるときには、20 歳位には始めましょうということでしょうか。
大橋  そうですね。昨今、シャペロン療法とか、遺伝子治療がカナダで始まりました。基質合成阻害薬も開発中です。以前は、酵素補充療法を一旦始めたら生涯治療するということでしたが、今は、もしかしたらそういう新しい治療法が確立される可能性があるので、「新しい治療を始めるときになるべくいい状態でいたほうがいいから、とりあえず始めてみますか」というような話は最近できるようになりました。
遠藤  症例数が少ないので、若い患者さんは何歳から開始したほうがいいといったラインは出ないのですね。大橋先生の情報網の中では、一番若くして酵素補充療法を開始している患者さんは何歳位からですか。
大橋  一番若いのは2 歳位からですね。それは実はスクリーニングで見つかったケースです。そのほかでは、点滴がそれなりにしやすくなる5 歳ぐらいで始めたというのが早い例ですね。
遠藤  新しい治療法の開発が進みつつあって、それがまた将来の早期治療のあり方を変えていく可能性があるということですね。