ファブリー病の今後の治療の選択について
遠藤  遺伝子治療が先行している病気もあるし、酵素補充療法は基本的に効果があるけれども、本当に効く患者さんがそれほど多くなさそうだという感じですね。
小林  投与の開始時期にもよると思います。男児のファブリー病の場合は、早く始めて10 年間たってどうなったかというスタディーがやっと出ているところです。酵素補充療法で心筋重量などのファクターが改善されているというデータが出てきています。ただ、それだけだと、生涯治療を続けるのか、治療が遅れた人はどうするのかといった問題があるので、シャペロンとの併用とか、医療費の問題をクリアしなければならないわけで、基質合成阻害剤の開発なども重要になってくるのではないかと思います。
遠藤  基質合成阻害剤は幾つかの病気に同時に効くような作用機序だと思うのですけれども、実際にGb3 は減るのですか。
小林  減ります。今、前臨床試験の治験に入るところですが、効果は出ているようです。
遠藤  発症前の若年の患者に対し、将来的にそういう治療法も効果があるのかもしれないのですね。ファブリー病に絞って長期的に見たときに、小林先生はどういう治療が一番理想的だと思われますか。
小林  ファブリー病に関しては、中枢神経に余り影響が来ないので、BBB を通過するということは、それほど考えなくてもいいのかなと思います。まず、酵素補充違法を早目にやるということと、シャペロンとかSRT の併用も考えつつ、遺伝子治療に関しては治験がうまくいくかにかかっていると思います。
遠藤  カナダの例ですね。
小林  ファブリー病の骨髄移植は、実は余り適応になっていません。ムコ多糖症Ⅱ型に比べると、普通の骨髄移植はあまり適応にならない状況です。今はレンチウイルスによる遺伝子治療で、酵素活性を一気に何倍も上げるという状況で生涯的に効くのではないかというコンセプトでやっています。酵素補充療法をつなぎに使って、最終的に遺伝子治療に持っていければ一番いいのかなと思います。
遺伝子治療の可能性
遠藤  小林先生、遺伝子治療は今のところはどうですか。
小林  始まったばかりなので何とも言えません。前臨床試験では、ある程度結果が出ているということです。医療費の問題も含めて、もしうまくいけば重要な解決方法になります。
中村  遺伝子治療が、脳内をターゲットにする場合と、そうでない場合とでアプローチが随分違うように思います。どちらが先行しているとかというのもあるのですか。
小林  遺伝子治療に関しては、レトロウイルス、レンチウイルス・ベクターが、骨髄移植を絡めた治療になるので、中枢神経を狙ってやる。ただ、それだけではなくて、酵素活性をかなり上げますから、必ずしも中枢に行かなくても非常に効果が期待できると思います。AAV に関しては、中枢はちょっと工夫しなくてはいけないと思うので、それに関しても脳内に直接注射するとか、手術的なことが必要になります。どちらかというと、ex vivo による遺伝子治療のほうが、代謝疾患に関しては先行しているのかなと思います。両方とも開発していくべきだと考えています。
中村  遺伝子治療のときにスーパーセルをつくってというアイデアは、結局今まで酵素補充療法で考えられてきたような、マンノース-6- リン酸を付加してということに頼らなくても、量的なもので取り込みは増えるということですか。
小林  基本的に、量的な取り込みが増えると、酵素活性が何倍も増加するということなので、その点に関しては問題はないかと思います。
中村  ファブリー病のヘテロの女性に対する遺伝子治療の効果はどうなんでしょうか。
小林  女性は心臓に症状が出やすいとかあるので、臓器に対する効果の移行性を調べていかないと何とも言えません。ex vivo でやるとある程度うまくいくのではないかと思いますが、それに関してもこれからです。
遺伝子治療での問題は
井上  実は、私は20 年ぐらい前にAAV の基礎実験をしていた時期があります。90 年代は、遺伝子治療が結構話題となったのですけれども、結局がんの問題があるなどのデメリットが出て、少し下火になったのではないかなと思います。安全性に関して、今行われているような治験で何か言われているのでしょうか。
小林  レンチウイルスの前のレトロウイルスが、マウス白血病ウイルスといって、LMO2 という腫瘍遺伝子をつついてしまう状況があって、世界的にストップした時期が90 年代にありました。それも、そこに行かないようなシステムをつくり、レンチウイルスを投与しても、レトロウイルスよりも腫瘍遺伝子をつつかない方向だと言われています。実際、レンチウイルスを使った治験でがん化した例は今のところはないです。ただ、これからはわからないです。
先ほど最後に少しだけ触れた遺伝子編集が今、盛んになっています。そこのポイントミューテーションだけを相同組換(ホモロガスリコンビネーション)で治してしまうというものですが、それもまだオフターゲット(狙ったところ以外)も切断してしまうという問題があります。今はそこを何とかクリアしようと世界中で研究が進んでいる状況です。
井上  プロモーターやエンハンサーが関係して、オーバーエクスプレッションになった場合は何か悪影響は出ないですか。
小林  それはいろいろ言われていまして、例えばクラッベ病とかMLD もそうかもしれないのですけれども、スルファチド系というような、オーバーエクスプレッションしてはいけない酵素もあるのです。ただ、ムコ多糖症に関しては大丈夫ではないかと言われています。疾患によって、コントロールしていかなくてはいけない。実際に、クラッベ病に関してはレンチウイルスを使って、マウスレベルで非常にうまくいっているのですが、上げ過ぎてだめだというデータも出ている。それでsiRNA を使ったり、サイレンシングしたりとか、手をつけなくてはいけない状況も発表されています。