ファブリー病はα-ガラクトシダーゼA(α-GAL)が遺伝的に欠損している疾患
「ファブリー病の概要」ということで、日本と世界の診断状況、早期発見に関する状況についてご説明します。ファブリー病は、1898 年、ドイツのJohann Fabry とイギリスのWilliam Anderson によって初めて報告されました。
ファブリー病はグロボトリアオシルセラミド(GL-3)を分解するライソゾーム酵素であるα- ガラクトシダーゼA(α- GAL)が遺伝的に欠損している疾患です。
α- GAL はGL-3 の末端のα結合しているガラクトースを切り離す酵素で、これが欠損するため、GL-3 が腎臓、心臓、血管の内皮、角膜、汗腺、神経節などに蓄積して、多種な症状を発現します。
早期にみられる症状と成人期にみられる心、腎、中枢の症状がある
比較的早期からみられる症状としては、皮膚ではおへその周りとか腰に拡大する被角血管腫、低汗症、末梢神経では四肢疼痛、四肢末端の感覚異常、消化器系では下痢、吐き気、目では渦巻き様の角膜混濁、網膜中心動脈閉塞症、血管がソーセージ様に拡張してくる所見が特徴的な結膜血管拡張、耳では耳鳴り、難聴、突発性難聴様の発作などが発現します。
成人期や末期になると、心臓では心肥大、心不全、虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、刺激伝導障害、腎臓では初期では尿蛋白、最終的には末期腎不全、中枢神経では脳梗塞、TIA、脳出血など生命を直接脅かすような障害が発現します。
生命予後的には比較的よい疾患で、小児期から老年期にかけていろいろな症状が現れますが、問題はその平均診断年齢が30 歳以上と遅れることです。この点は本座談会の重要なポイントでしょう。
被角血管腫で見つかる患者さんも少なからずいらっしゃいます。眼科的には、ファブリー病にかなり特徴的な所見ではあっても、なかなか見つかることが少ないようです。
ファブリー病の典型的な病歴
67 歳で亡くなったファブリー病の患者さんの病歴をお示しします。
この患者さんは小学校3 年生(8 歳)の時から既に足の疼痛を自覚していました。汗もほとんどかいていない。この辺が遺伝病としてのファブリー病の特徴かもしれないのですけれども、お母さんはお兄さんも同じ症状だったため、そういうものだと思って放置していました。17 ~ 18 歳で、疼痛がひどいために複数の医療機関を受診したのですけれども、心身症だろうと。その後、これは痛みの特徴なのですけれども、年がいくと、痛みが少し軽減する。特に、ほかに心臓とか腎臓の症状もないので、ファブリー病としては割合と調子のいい時期がありました。診療所、病院に行かなくてもそれなりに仕事ができる。このまま放っておいて二十数年たつと、心電図で異常が出てきて、49 歳のときに失神発作で神経内科、循環器内科に受診し、洞不全症候群(six sinus syndrome:sss)の左室肥大(LVH)と診断されました。この主治医の先生は偉かったのですけれども、心生検をして、ファブリー病を疑い、α- GAL の低下を確認し診断がつきました。それまで41 年間、診断されることなく過ごしたわけです。
61 歳に酵素補充療法(ERT)が承認されたのでその治療を開始しましたが、既にCr2.0mg/dl、eGFR は恐らく10 ~ 20 台と腎機能低下が進んだ状態でした。5 年後には透析導入になって、67 歳で突然死で亡くなられた。診断の遅れが残念な結果になっているよくあるファブリー病の経過だと思います。
男女とも診断が遅れるのが問題
症状が4 ~ 6 歳に発症しても、診断されるのは20 ~ 30 年以上たってからというのが多いようです。
Fabry Registry という世界的なレジストレーション・システムでも、男性の初発症状が9 歳、診断が24 歳、女性の初発症状が13 歳、診断が31 歳と報告されており、男性・女性とも診断に11 年ぐらいかかっています。ファブリー病はなかなか診断できないというのは、日本だけでなくアメリカや他の国々でも同様です。
ファブリー病のアンケート調査の結果からみた診断の現状
東京慈恵会医科大学小児科の櫻井謙先生が、JaSMIn とMC-bank のファブリー病のアンケート調査の結果をまとめて、小児科学会の教育セミナーで発表したデータを紹介します。
早期治療の重要性を示すエビデンス
ファブリー病で早期診断ができれば、早期治療が開始できます。ファブリー病の治療目的は、腎機能不全、心臓の疾患、脳梗塞をいかに防ぐことができるかということになります。早期治療が効果的であるとするエビデンスがいくつか報告されています。
ファブリー病による軽症~中等度腎機能障害を有する成人患者82 例を対象にアガルシダーゼベータ投与群とプラセボ投与群を、腎機能低下が進行していない患者と比較的進行した患者に分けて35 ヵ月間投与した場合のイベントリスクの抑制効果を比較しました。
eGFR が投与開始時55 以下であるような進行した患者さんでは、臨床的なベネフィットはアガルシダーゼベータ投与群もプラセボ投与群も変わりがない。一方、eGFR が投与開始時55 以上と比較的軽度な患者さんでは、アガルシダーゼベータ投与群のリスク抑制率は81%であったという結果でした。ファブリー病では末期になって病気が進行してしまう状況だと、酵素補充療法をしても臨床的なベネフィットは得られないというデータです。
他にも左室肥大(LVH)がない状況でファブリー病の酵素補充療法を開始すれば、心肥大の進行は少なく安定化するという報告もされています。
まとめ
ファブリー病が進行してから酵素補充療法を開始しても臨床的な効果が得られにくいことは重要です。日本、アメリカ、世界的にも診断の遅れがあり、症状が発症してからすぐには診断されていない現状あるわけです。早期診断の重要性は、ポンペ病と同じように、ファブリー病でも重要な課題であると考えています。