新生児スクリーニングで実際に行う作業(主な項目だけ)
この座談会が始まる前に、熊本県や福岡県が、なぜ新生児スクリーニングをやることができたのかということを中村先生と議論していました。実は、実施前にすごく時間をかけていました。実際に行った作業のうちの主な項目だけを下記に列記します。
まず、実施主体の決定です。誰が実施するのか、その「誰が」というのは、結果に責任を持つ人ということです。
それに至るまでに、産婦人科医会の協力体制が必要です。これは一致して協力していただくことが不可欠です。小児科の関係者の統一した理解も必要です。自治体の承認は、ハードルの高いところと低いところとさまざまです。産婦人科の協力が得られた、実施主体が決定した、小児科医も皆こぞって賛成した、といった統一した見解がないと、自治体に実施要請にも行けません。自治体との交渉も含めて実施主体が誰かということは特に重要です。
あと、具体的な話では、ろ紙の取り扱いについてです。今のろ紙は自治体が所有しています。それを今度の新規スクリーニングに使えるか、新しいろ紙を使うかといったことの決定も必要です。
既存の検査センターの関与もあります。前向きにお応えしてくださる検査センターがあるというのは非常に有望です。中村先生が報告されたセンターは、基本的に今までのろ紙収集システムが使われています。
右側の項目はややマイナーなものですが、結果の連絡伝達と集計もきちんとしておかないといけません。これにはコストがかかります。スクリーニングコストの中で、料金徴収や結果の集計のコストはかなり大きいと思ってください。それから、確定診断施設との連携、遺伝カウンセリング体制、フォローアップ体制も重要です。
スクリーニングを実施しようとすると、「フォローアップ体制は大丈夫なんですか」と、ここに掲載されている項目の一番下の項目から議論している場合がほとんどです。でも、実際は左側の一番上から進めることも重要です。両方から議論を始めないと、地域のスクリーニングは実現しません。
ライソゾーム病全体でとらえてスクリーニングのメリットを考える時
もう1 つ重要なことは、ライソゾーム病で新生児スクリーニングを実施するにあたっては、個別の疾患でとらえるよりは、まず、全体のメリットがあるかということを見るべきだということです。
下図は「どの疾患でスクリーニングを実施すべきか」ということについて、マウントサイナイ医科大学のDesnick 教授がブラジルの学会(ICIEM)で発表したときに使ったパネルを日本語に訳したものです。これは私にとってすごく印象的でした。つまり、いろいろな疾患で早期診断が大事だと、個別に専門家が議論していますが、全ての疾患を見たら、どの疾患も問題を抱えています。これらの問題を一括して考える必要があると思います。スクリーニングにより早期発見したときにトータルでメリットがあるのかどうかというところを全体で考えたほうがいいと思います。熊本では、自然の流れで一応そういう考えで進めてきました。スクリーニングは、まだまだゆっくり進んでいきます。今日は内容の濃い座談会を、ありがとうございました。