ムコ多糖症に対する造血幹細胞移植とスクリーニング
遠藤  詳細なお話をありがとうございました。ムコ多糖症Ⅰ型、Ⅱ型は、治療法がずいぶん改良されてきて、造血幹細胞移植に対する評価も、再評価を含めて加藤班でも研究されているということだとすると、ムコ多糖症Ⅰ型、Ⅱ型も重症型を早く見つけたほうがいいということですか。
小林  そうですね。重症型は1 歳半~ 2 歳までに見つける。実は衛藤先生の代理でサンディエゴのMPS 専門家ミーティングに行きましたが、向こうのベストプロトコルは、スクリーニングで見つけて、1 歳半ぐらいまではすぐ酵素補充を導入してドナー探しをする。2 歳までに、ベストは1 歳8 カ月までに移植してしまう。その結果、全例ではないですが、患者さんは大学に行ったりしています。重症型を早く見つけるという意味合いは非常に大きいのかなと思います。
遠藤  MPS は、岐阜も今までいろいろ経験がおありかと思います。
深尾  Ⅱ型については、欧米ではほとんど骨髄移植は効果がないと言われ、効果があるという主旨の論文を出してもアクセプトされない状態が続きました。たしかこの前、戸松先生が最終的には論文を通したと思います。やはり骨髄移植をしようとすれば、早くにやらないと意味がないし、最終的には骨髄移植を一回やればうまくいくのであれば、酵素補充療法でつないで骨髄移植というパターンが、QOL を考えても理想的かなと思います。Ⅱ型についても、酵素補充療法でうまくいくようにするには、早期診断、早期治療しないといけない。骨髄移植した小さい子のデータがもう少し出てくるといいかなと思っています。脳に移行する酵素補充製剤が、現実的に見えてきていることを考えると、神経症状が出る前に治療しないと、せっかくの治療がQOLにつながりにくいということになります。岐阜大学ではムコ多糖症Ⅱ型を、できるだけ早く見つけていきたいという考えです。
今、岐阜でパイロット的に測定しているのはムコ多糖症Ⅰ型とⅡ型とポンペ病で、4MU である程度問題なくできそうだというところまで来ています。
ポンぺ病の発症 — 診断のタイムラグ
中村  いろんな疾患が出てきて、1 つ1 ついろいろな考え方があって勉強になりました。ポンペ病のタイムラグがタイプによって結構違っていました。あれは、進行のスピードが違うから診断の早さが違うということでしょうか。
小林  乳児型と遅発型は明確に違うと思います。しかし、小児型と成人型は連続性がかなり高いので、16 歳で分けるというのも一応コンセンサスではあるのですが、あまり一般的に浸透しているわけでもないと思います。実は過去に遅発型として調査したのですが、16 歳で区別したのはその時だけだったのです。ただ、オランダとイギリスの論文では、完全に小児型と成人型として分けているので、タイムラグの違いは確かにあるのかなと思いますが、16 歳を境に大きく臨床像が違うかというと、決してそんなこともないような感覚があります。イギリスで成人型のタイムラグが19 年になっています。ポンペ病でも成人型では軽症の人も多いのですが、40 歳を超えてくると呼吸障害が出てきたり、緩徐ですが40 ~ 50 歳になると急速に悪化する人もいます。そうした経過中に診断されたというパターンも出てくるので、タイムラグの評価は結構難しいのではないかと思います。
ムコ多糖症のタイムラグ
中村  ムコ多糖症のタイムラグが半年から1 年ぐらいとなっていますが、本当はもっと長くかかって見つかる症例がありますね。軽度なものはすごくバリエーションが多い。そういうところは、この評価の中に入っているのですか。
小林  私も中村先生と同じような印象を受けて、こんなにすぐに診断がついているわけはないと思いました。特に、ハーラーに関しては、0.4 年で診断がついているというのは、ピンときません。
たぶんこれは大規模レジストリーなので、細かい症例は全然入っていないのではと推測します。
アジアでも1.1 年となっていますが、岐阜大のほうが症例数は多いと思いますが、もう少し時間がかかっています。故田中あけみ先生の総説を見ても、Ⅰ型の本当に重い子は6 カ月くらいでわかりますが、そうではない方は、なかなか難しい場合もあると記載されています。その辺の診断能力は、スキルが非常に必要になってくるので、それを補う意味でも、スクリーニングは大事なのかなと思います。
ALD のスクリーニングと治療の課題
中村  ALD の話が出ていましたが、スクリーニングをする場合、フォローの仕組みがとても大変です。遺伝子治療を導入すると、そこは発症に関係なく進むようになるかと思います。
小林  ALD は非常に難しくて、ALD は大脳型になるかAMN で済むかは、はっきりわからない部分があります。そこであえて骨髄移植をするかというと、なかなか難しい問題もあり、実際、骨髄移植を選ばない方も結構いらっしゃいます。また、合併症の問題をご理解いただいて骨髄移植をしても、なかなか改善しないこともあります。ブスルファンで症状が進んでしまうかもしれないという説もあります。発症前に重症型、大脳型だとわかっていれば骨髄移植をやるべきだと思いますが。
遺伝子治療に関しては、GVHD の心配が全くないので、挿入変異とか別の心配はありますが、レンチウイルスではまず大丈夫だろうと言われていますので、その辺は回避できるのかなと思います。