ハイリスクスクリーニングと新生児スクリーニング
遠藤  ハイリスクスクリーニングで見つかった神経型ゴーシェ病2 名の治療はどうされていますか。
中村  1 人は新生児期、もう1 人は乳児期に発見されて、1 人はまもなく亡くなったと伺っています。もう1人はすぐに治療を始められました。
成田  神経型2 名、非神経型1 名、合計3 名の患者さんが見つかったということはすごい確率で、神経症状が出てしまっている患者さんはまだ、かなり埋もれているというのが実感できました。ありがとうございます。九州エリアは先生方のご活動のおかげで、小児神経科医でもゴーシェ病を疑えるようになったというのが実感で、西日本のエリアではだいぶ集約されていると思います。今後は東日本エリアを集約して見つけていくことが必要なのかなと強く感じました。
小林  ファブリー病のスクリーニングは、合計で40 万人ぐらいですか。
中村  新生児が50 万を超えました。
小林  かなりすごい数です。その中で判明してきた事実や知見は非常に大事だと思いますし、やらないとわからない部分は非常にあると思うので、これからも教えていただきたいと思います。あと、酵素活性測定方法は4MUとタンデムマスのどちらがメインですか。
中村  熊本大学では4MU です。
小林  やはり4MU がメインですね。それはコスト的な問題もあるということでしょうか。
中村  タンデムマスはいろいろなものがセットに含まれていて、そこら辺の使い勝手がいまひとつというのを感じていたところです。
遠藤  ローカルの検査施設で酵素活性測定をファブリー病から開始する場合、「4MUとタンデムマスのどちらで始めますか」といわれたら、ほとんどコストがかからない4MU ということになります。次にゴーシェ病の酵素活性測定を追加する時も、試薬を追加するだけでできますからね。いつタンデムマスに移行するかは大きな課題だと思っています。現実の検査施設、コスト問題、それと無駄な検査が出てしまうということが移行できない事情といえます。
中村  ただ、もっと広範囲な仕組みで、一斉に移行しますという形になれば、タンデムマスによるマルチプレックスは使いやすいということになろうかと考えています。
ゴーシェ病のハイリスクスクリーニングとろ紙血の問題
新宅  ゴーシェ病のハイリスクスクリーニングで、血小板数のスクリーニングの話がありましたが、具体的な検査値はどのぐらいですか。
中村  血小板数は12 万/µL を1 つの線にしています。先ほどお話した診断アルゴリズムでは、15 万/µL という数字が出されています。ただ、15 万/µL というのは、熊大でも正常人の血小板の参考値の下限に含まれるぐらいの値で、数をある程度絞るということで12万/µL にしているところです。
新宅  対象は、年齢とか特に制限はないですか。
中村  全くありません。
新宅  かなり検体数が多いのではないかと思いますが。
中村  そうです。ただ、血液内科では、ゴーシェ病は専門外なので、入り口が簡単でないと誰も入ってくれない。ハードルが高いので「血小板数が低い人を診たら、ろ紙血をつくって送ってください」というぐらい単純化しておかないと、検体が来ないのです。
遠藤  先日、成田先生が発表されたゴーシェ病研究会の報告では、ゴーシェ病の患者さんの血小板値は、1/3 くらいの患者では正常範囲にありました。血小板数だけで見つけるのは難しいようですね。ただ、意外だったのは、乳児例で血小板値が低かったことです。
中村  低かったですね。
遠藤  重症型は血小板数が下がっているのかなという印象でした。
成田  あの子は日齢5 日です。周産期致死型に近く、重症型で脾腫もありました。
遠藤  2 人とも脾腫がありましたね。重症型は症状が強く出るのかなという印象でした。
深尾  ゴーシェ病はハイリスクスクリーニングで結構見つかってきているという印象です。ところで、例えば6 カ月齢で見つかった場合、その新生児のろ紙血もまだ残っているということになりますよね。ある程度時間がたったろ紙血でも、ゴーシェ病の酵素活性は測定できますか。
中村  冷蔵してあれば、多分はかれると思います。ファブリー病に比べてゴーシェ病のグルコセレブロシダーゼの酵素活性は、ろ紙血の取り扱いによって活性が落ちやすいのではないかと思っています。内科から送られてくる検体で活性が低い場合が多いのです。だから、ろ紙血のちょっとしたつくり方や保存条件を確認しようとしているところです。
深尾  酵素によって違うというのはあります。うちの折居先生も、ムコ多糖Ⅰ型やⅡ型の酵素活性を測定していますが、1 カ月たってから4℃に保存してあったろ紙血の酵素活性を測定しますが、4℃に保存したものに比べ酵素活性値が全然違うといっていました。最近は早く測定するようにしています。ゴーシェ病でもそうなのでしょう。
ファブリー病の新生児スクリーニング
深尾  あと、中村先生の約50 万人のファブリー病の検体数は、日本が年間100 万人生まれるうちの半分をみていることになるので、これを倍にすると、先生の地区が日本を代表した数値でよいとするならば、日本で1 年間に古典型が12 人、遅発型が80 人位、見つかっていることになると思います。遅発型はどのくらいの年齢から発症していますか。
中村  家族歴を見ると40 ~ 60 歳以降です。両親はまだ症状はなくて、祖父母の世代で症状が出てきているという印象です。
深尾  それは遺伝子でかなり区別がつけられるのですか。
中村  そうですね。ファブリー病はかなりいろいろな報告がされているので、変異は1000 種類とかありますが、それを見ると、表現型がある程度わかるので、それで判断ができるものは多いです。ただ、いまだに新規の遺伝子変異が見つかっています。
深尾  そういう場合はどうなるかわからない。
中村  その家族の中の男性の酵素活性をはかると、ある程度推測がつくことがあります。
深尾  50 万は男児ですか。
中村  男女合わせてです。そのうちの6 人の古典型はすべて男児です。
深尾  女児は結構難しいから、見逃している可能性がある。スクリーニングだと、男性がほとんど見つかってくるということですね。
酵素補充療法の効果持続と抗体価
深尾  それとポンぺ病の酵素補充療法では治療後に、抗体ができて効果が下がってくるということがありますが、ファブリー病の場合もあるのでしょうか。
小林  治療後に抗体価が上がるという問題は、個体によって、あるいはジェノタイプによって全然違うと思うのですけれど、ファブリー病の場合、それほど大きなクローズアップとはなっていないと思います。ただ、その考え方は非常に重要なところだと思います。
中村  ポンペ病は投与する酵素量が多く設定されています。組織に移行しにくいのが理由とされています。より組織に行きやすくて量が少ない治療が出てくると、その問題は改善されてくると思います。ポンペ病は効かなくなる患者さんが出てきますからね。
深尾  患者さんの重症度によって、いつから酵素補充療法を開始したら効果が持続するのか、もしくは早く治療した方が抗体ができにくいのか、そういうことをディスカッションしていかないといけないと考えています。
遠藤  深尾先生の教室はアレルギー関連も専門ですから、今後の研究の1 つはそういうところにフォーカスされていくのでしょうね。
新宅  酵素補充療法を始めると、生後2 ~ 3 カ月ぐらいの比較的免疫寛容が働きやすい時期ということで、マススクリーニングを始めて、非常に早いときに投与し始めた症例は抗体ができにくい、そんなデータはないですか。
遠藤  データ的には今からでしょうね。台湾の症例とかではどうなっているのか興味あるところです。
新生児マススクリーニング普及への課題
山口  熊本では新生児マススクリーニング検査のろ紙血と同じものを使って検査できているということを伺ったのですが、新たに追加されている県が幾つかあったと思います。他の県をどんどん追加していくというか全国に広げていくに当たって、どんなことが今、障壁になっているのでしょうか。
中村  すごくいい質問ですね。地域ごとに何が課題なのかが違うというのがその答えです。新生児スクリーニングを始めるための大事なポイントの1 つは、産科の先生が、これは大事な検査だと思ってくださることです。産婦人科の先生がご両親に病院で説明されるので、産科の先生に、これは必要な検査だ、大事な検査だと思っていただくことが1 つ、大事です。熊本だと、県内に医学部が熊本大学だけにあって、隣に産婦人科の教室があって、ふだんから顔を合わせているような関係がある。周産期医療でも、話がしやすいし、信頼関係があるというのは、大事なポイントだろうと思います。
もう1 点は、行政が理解してくれるかどうかです。新生児スクリーニングの実施主体は自治体です。自治体が事業としてやっていることで使っているろ紙血とか仕組みを「これは大事なことなんですね」と思ってもらうのが大事で、そこの仕組みが県ごとに全然違うのです。地域が違うと、そういうところでハードルが上がってくるのではないかなと思います。
先日、お話を伺ったのですけれども、佐賀県には医学部が佐賀大学にしかなくて、ピロリ菌のスクリーニングを県単位で始めています。これまでに培ってきた行政との信頼関係があるのだろうと推察しています。