リンパ節腫大と石灰化の所見
遠藤  この症例は、僕が大学にいるときに島津先生から外来に紹介していただいて、みんなでいろいろと治療してきました。写真を改めて見ると、やはり第1子の方は発育障害が強かったですね。それに比べて第2子の女の子は順調で歩き回っていただけに大変残念でした。井田先生、ERTの効果はいかがでしょうか。
井田  ERTが認可された当初、Ⅱ型の患者さんに出生直後からERTを開始した例もありました。途中までは経過は良好だったのですが、究極的には予後は同じだという結論でした。ERTでグルコセレブロシドの蓄積が低下するので、発達や活動性がよかったりするのですが、最終的には中枢神経症状が悪化してしまいます。
遠藤  あと、リンパ節腫大と石灰化ですね。
島津  お兄ちゃんは腸間膜リンパ節や頚部リンパ節に石灰化がみられ、腸管壁にまで石灰化している部分がある。妹さんも腸間膜リンパ節は石灰化がありましたが、腸管自体は問題ないという感じでした。
井田  腹部のリンパ節腫大と石灰化を合併するゴーシェ病の症例は日本でも3~4例いると思います。韓国からは蛋白漏出性胃腸症(protein losing enteropathy)になったという報告がありますが、これもゴーシェ病の1つの症状ということで間違いないと思います。
ただ、石灰化だけでは治療対象にならず、低蛋白血症を起こしたり腹痛を頻回に起こした場合は、ある程度治療が必要になると思います。また、石灰化が起こる原因はまだ解明されておらず、ERTでは効果がないことがわかっています。
頚部リンパ節の石灰化は初めて見ました。この方は長く生きておられて、どんどんリンパ節へ広がって頚部に進展したという可能性はあります。
血管系は大丈夫なのですね。Ⅲc型では大動脈などに石灰化が認められる方もいます。
遠藤  妹さんは虫歯から敗血症を起こしましたね。最終的には、サイトカインストームという形で亡くなる方もいます。島津先生、よく診ていただいてありがとうございます。僕の経験から言うと、ゴーシェ病は日本で治療されている例とヨーロッパのⅠ型とは違うので文献が少ないです。サイトカインストームなども向こうの論文には少ないです。だから、これは非常に貴重な例だと思います。
井田  日本からこういう事例をどんどん報告してほしいですね。
出生前診断から出産を決断した理由
中村  ご両親が病気だけど育てたいという判断に至った理由はいろいろあると思いますが、やはり上のお兄ちゃん、お姉ちゃんの生活を見ていて、それがご両親にとって幸せな時間だったと感じられたところが一番大きかったのではないかと思います。具体的にどういうことを感じられていたのでしょうか。
島津  ご両親の、特にお母さんの子どもに対する愛情がとても強いご家族だなと思いました。第1子が健康なお子さんとして生まれ、生後1年ぐらいまでは普通に過ごし、愛情も十分注がれていた。病気がわかっても、過ごした期間の中での愛着形成は非常にうまくいっていたということが最初にあった。その後、第2子もゴーシェ病とわかってからも在宅を選択し、さまざまなことをご家族なりに判断しながら進めていったことがよかったと思います。進行性の病気で予後は厳しいということも分かっていましたが、そのときどきを悲観的ではなく、非常に明るく過ごされているご家族でもあるのです。2番目のお子さんが亡くなったときも、寝たきりで人工呼吸器管理しているお兄ちゃんがボロボロ泣いたんです。意思疎通をとれることも難しいのですが、病院では見られない笑顔や感情が出ていました。大脳がちゃんと機能しているところが残っているのだというところも含めて、ご家族がそういうお子さんの変化を感じながら生活していました。愛着形成が非常に強いご家族だなと感じています。第4子がゴーシェ病とわかったときも悩まれていたようですが、やはり産むことを決断されました。
中村  治療法のあるなしについては判断に影響がありますか。
島津  前田先生が言われたように、代謝疾患において治療法があるということで希望が持てたり、早期に治療を開始することで予後や発達がいいのではないかという期待が持てたりすると思います。実際、第1子と第2子では2番目のお子さんのほうが発達はよかったし、第4子はまだ症状がない状態で治療を開始している。またいろいろなことが起こると思いますが、ご家族としては少しでも予後がよくなって、一緒に過ごしたいという思いが非常に強いように感じます。治療薬があるということは治療が何もない状況より、ご家族には未来が、光が見える感じがあると思います。
在宅医療におけるレスパイト入院の役割
中村  もう1点、ふだんのレスパイト入院が災害時の訓練として役立ったという話が出ていましたね。そういったことは、重身、在宅に限らない。例えば、熊本地震のときには、腹膜透析をしている2 家族に腹膜炎を起こした子がいました。それは、避難所や車中などの劣悪な環境下で腹膜透析を続けなければならなかったことで腹膜炎になったのではないかと考察されます。そういう人たちもふだんも時々病院に来て練習するといいのかなと思いました。そういう災害対応としてのレスパイトの役割は、在宅に限らず、普遍的に考えられていますか。
島津  私たちはたまたま病床数が多く、そこをレスパイトとして利用するということもあります。日中一時支援とか短期入所とかの福祉制度も組み合わせながら、医療依存度に応じて使い分けています。最近は、地方の病院で小児科病床が余ってきているので、レスパイト的なものをしたいということで見学に来られたりしています。ただ、当院では急性期病床も同じ病棟内にあるので、感染リスクなど繊細な管理が必要で大変なところもあります。私たちもロタの院内感染を起こして、レスパイトでお預かりしている人のうちの2 人をPICUに運んだこともありました。また、レスパイトを利用する方は重度のお子さんが多く、看護師側にもかなり負担がかかります。いろいろなバランスを考えると、医療費の問題などもあり慎重に進める必要があるかなと思います。
遠藤  病床がたくさんあるのと入院患者がいつも少ないということを理由にされていますが、頑張っていらっしゃるなと思いました。
特に、在宅移行直後からレスパイトつきで退院させていくというシステムが非常にいいですね。医療側も患者側もレスパイト慣れしていくというところがいいかなと感じます。
島津  20年以上在宅で頑張って、一度もレスパイトを使ったことのないご家族は、預けるときに結構緊張しています。預かる側も同様で、お互いに慣れない中で大変な状況になるので、災害時のことも考えて定期的な利用は必要だと思います。
井田  私たちの病院も一般的療法による入院が減っています。急性期医療だけでなく、地域に密着した小児医療ということで、レスパイト、あるいは高次医療機関との連携などを取り入れていくことが必要となっていますが、その際に重要なのはナースのモチベーションの維持と教育だと思います。先生は、ナースの教育はどうされていますか。
島津  以前は、うちの病院では医療依存度が低い患者さんをお預かりしていて、私が来てからは徐々に医療依存度が高くなってきて、看護師さんたちもだんだん大変になってきたと思います。
井田  経験の中でわかってきたというか、自然に行われるようになったということですね。
島津  そうですね。ただ、熊本の場合は、病院間同士の連携で、医者同士も基本的には医局が1つなので顔が見える関係ができています。看護師さんたちもNICUの看護師、私たち、市中病院の看護師、在宅の看護師でワーキンググループをつくって、退院に向けた吸引の仕方などを統一しています。そうすることで物品も統一できる。そういうワーキンググループを2~3 年ずっとやっているのです。そういう意味では、在宅へ向けた指導方針やレスパイトのことなども、ある程度統一するようにしています。
井田  ありがとうございました。
遠藤  すごいですね。では、追加ということで、SMA患者さんの紹介をお願いします。