治療法があることで患者家族も医療者側も前向きになれる
遠藤  先生のところではライソゾーム病患者が14~15名いらっしゃいましたね。ライソゾーム病センターのようで、そういう大きなところは日本国内にはあまりないと思います。ムコ多糖症も3名、副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy)も診ていらっしゃる。
前田  井田先生からずいぶんご紹介いただいています。
遠藤  井田先生との連携が非常にうまくいっていますね。専門医と地域包括医療のネットワークが理想的に構築されている。また、新規の人工呼吸器など、前田先生の医療技術の取り入れ方が非常に先進的であることも含めて、とてもうまくタイアップされている。理想的ですね。
井田  私も理想的だと思っています。
遠藤  関東地方では、主に東京都内と千葉県を中心にされていますが、在宅人工呼吸管理児の数を見ると日本では約3,400名いて、そのうち先生のところで約300名ということは、関東の専門家として一手に診られているのでしょうね。
前田  そうですね。東京都全体で人工呼吸器管理児が440人、23区で300人ちよっとだと思うので、それで考えると、あと数十名以外はほぼ我々で管理しています。
遠藤  9割ぐらいは先生のところで診ていらっしゃるわけですね。さて、ライソゾーム病は酵素補充療法(ERT)がある病気とない病気に分かれますが、ご家族の病気に取り組まれるご様子などで、治療法のあるなしが影響することはありますか。
前田  私はよくお子さんの終末期に付き合うわけですが、治療法がなくなっていくプロセスは親御さんにとってはとても不安なことのようです。「何もないですよ」と言われることは大変怖い。それで言うと、ゴーシェ病では症状は厳しいですが、ERTがあるということは親御さんにとっては非常に大きな希望であり、支えになっているところは間違いなくあるだろうなと思います。
日常的な管理においては、実はそう変わるわけではない。治療をしていてもゴーシェ病はそれなりに厳しいですが、我々としてもERTは往診の手間はかかるものの、治療を通じてやることがはっきりしているありがたみみたいなものはありますね。
遠藤  神経症状のあるゴーシェ病にしてもニーマン・ピックCにしても、神経症状が悪化していくとは思いますが、昔に比べると随分長生きになっています。特に、ゴーシェ病でERTをしている人は、井田先生の患者さんのご報告を見ても、長生きされているのではないかなと思うのですが。
前田  私は、井田先生からご紹介いただく前は、ライソゾーム病の患者さんをほとんど拝見していないのでわからないのですが、教科書で見るより長生きですね。
ゴーシェ病Ⅱ型の11歳の子は、自宅で看取ったのですが、この子はおそらくⅡ型では世界一長命だと聞いています。3 歳のⅡ型の子は安定しているので、このまま何事もなければ10歳ぐらいは長生きできるのではと思います。
在宅における移行期医療
中村  小児難病の移行期医療は、小児科と成人の診療科が一緒に診ていくパターンが多いのですが、在宅医療になると小児科で専門の診療をしているところと、先生方のような在宅を中心に診ていく病院との移行期医療というかタイアップが中心になる感じがしています。難病の患者さんで、先生のところと内科の診療科との連携が必要な場合というのは、実際にどのようなことがありますか。
前田  うちの法人では複数の診療所を運営していて、内科の先生もいらっしゃるので、内科のことは内科の先生にコンサルテーションしながらやっているということがあって、継続して診ることに関してはまったく違和感がないですね。
中村  そこが1つの理想型だなと。先生方のところに内科の先生までいらっしゃると、そこからさらに成人の診療科への移行を考えなくても、在宅医療という形で成人期のことまでカバーできるというのが、システムとしてうまくいっているなと思います。
高度医療機関と在宅医との連携
島津  通常、在宅で診ていくときに、小児科医ではない在宅医の先生なども含めて、在宅医の先生方が信頼関係をなかなかつくれなかったりします。総合病院にかかっていると、病院医療が中心で、在宅医の先生がそこを補完する形が多いのですが、前田先生の場合は在宅医療が中心になっていますね。そのときに、入院できるような施設と前田先生との関係性はどうですか。例えば、私も自分の医療機関で治療するのですが、PICUという選択肢があると、ご家族は最終的にPICUでの治療を希望される場合があります。PICUとの連携、どのタイミングでさらに高度な医療機関に送ればいいのかを悩むのです。前田先生は、在宅での呼吸器の導入などいろいろなことをされていますが、さらに高度な医療機関との連携とかは難しいですか。どのように連携されているのかというところを教えていただければと思います。
前田  私たちが一番連携しているのは、井田先生のところのような大学病院です。ほとんど大学病院と成育と日赤と都立小児といった高度医療機関と地域がそのまま連携しているので、全然迷いがないです。
逆に、小児の在宅医療のモデルは、いろいろなところで議論されていて、成人のように地域病院があり、そこをステップにして、さらに高度というモデルがよいと言う先生方もいらっしゃいます。それも1つだとは思いますが、少なくとも東京と千葉近郊地域で我々がやっているところは、高度医療機関と直接連絡していて、そこにほとんど不便は感じません。ベッドが満床ではない限り、必ず引き受けてくださるのです。我々が診られなくなったら、受けるしかないかなと思っている節があって、僕からの電話はドキドキするらしいです。そうした連携の中で、あおぞらが診られないと言ったら、もう診るしかないみたいな空気感が大学病院の先生方にはあるので、役割分担で迷ったことはほとんどないです。
遠藤  島津先生は、具体的には日赤のPICUとか大学病院とかに送っているわけですね。
島津  そうですね。例えば、呼吸不全で人工呼吸管理をしながら診ていて、多臓器不全になってきたときに、最期まで私たちが看取るという場合と、ご家族が最後まで積極的な医療介入を希望される場合があります。ただ、送られた先の病院の先生としては、こちらとの信頼関係のほうが強いので、どこまでの治療をしていいのか、重症心身障害児に透析や体外循環の適応をどう考えるのか、そういった相談を受けることがあります。そういうときは、僕らが病院まで行って、僕らが「この状態でそこまでの治療は難しい」と言わないと、ご家族もなかなか納得されない場合もあります。
また、15歳を超えるとPICU加算がとれないため(小慢を除く)、内科のICUだと、どうしても内科の先生方の治療方針と小児科でずっと診ている先生方の治療方針で違ってくる。そこで内科の「はじめまして」という先生とご家族の治療方針がうまく合わずに、納得のいく治療が受けられないなどの問題が、移行期医療の中で生じてしまうのかなと思うときがあります。
遠藤  そういうことは多いでしょうね。前田先生の基幹病院と直結した診療というのは、かなりストレートでいいような気がします。
前田  地域特性だと思います。東京都は中規模病院がなくなってしまったので、難病の患者さんは最初から基幹病院にしかかかっていないです。以前は、小児科医が4~5人でベッドが10床ぐらいの病院が東京都内でも幾つかありましたが、東京都の病院編成で、そういう病院がなくなってしまって。東京の特性ですね。だから、大学病院が風邪から何まで診療していると思います。
遠藤  それは大変ですね。
井田  島津先生の問いに関するお答えになっているかどうかわからないですが、移行期医療は、例えば医療機関同士の信頼関係と、患者さんと医療機関の信頼関係がないと成立しません。慈恵医大の場合は前田先生が診てくださっている患者さんの入院要請が前田先生からあれば受けざるを得ないよねとみんな思っているわけです。僕のところに電話が回ってきて、僕が病棟長に電話をかけて、「連絡があったから、よろしく」と。「よろしく」と言えば、それは入院ということなんです。ある程度前田先生のところで診て下さっていて、入院適応を的確に判断していただけるので、「前田先生が入院というのだから、これはしようがないよね」という感じです。
患者さんも、前田先生のところでずっと診てもらっていて、診断はうちでやっているし、ある程度の定期的なフォローもしているので、その辺も信頼関係ができて、何ら問題はないです。トラブルを起こしたことが全然ないです。
前田  それに関しては、言われてみるとトラブルは全然ないですね。
島津  恐らく前田先生がいる地域が全国的にはレアケースで、なかなかうまくいっていない地域のほうが多いのかな。
井田  多いと思います。それをどのように解決していくか、在宅医療医も基幹病院も認識を持ってやっていかないといけないと思います。基幹病院はキチンと診断を行い、その後のケアは在宅医療で行い、入院医療が必要な場合は患者さんをいつでも受け入れるという使命感を持つことが重要だと思います。在宅の先生と連携を保ちながら、定期的に病院を受診し通常は在宅医療を受ける。うちはそんなシステムでやっています。力量のある在宅医療医が地方に出てくるとこのシステムが可能になります。
脊髄性筋萎縮症の治療効果
遠藤  今日は脊髄性筋萎縮症(SMA)の患者さんについても、前田先生、島津先生から教えていただければと思っています。治療薬により、かなり効果が出ている人がいるということですが、前田先生も何人か診ていらっしゃると思います。治療法が出てきてSMAの患者さんの治療予後とか生活などで変わったことはありますか。
前田  うちで診ているSMAの子たちは、赤ちゃんのころから治療しているわけではないのですが、1人1人個別で診ると、表情が全然出なくなっていた子に表情が出たり、手が動かせるようになったりなどの変化が出てきています。親御さんたちの中に希望感のようなものは相当出ている感じはありますね。そこが一番の違いでしょうか。
遠藤  早期治療が有効だとも言われているので、これから先は早期治療を行えばもっと変わるかもしれないですね。
前田  多分変わるでしょうね。
遠藤  島津先生のところにもいらっしゃるのですよね。在宅でいらっしゃるのですか。
島津  在宅で診ています。僕の診ている子も3歳と7歳の兄弟例で、いろいろな効果は出ています。早期診断・早期治療でいくと、やはりスクリーニングして、早くみつけて、治療したら、劇的に変わると思いますね。そこはすごく大事かな。予算のかかることだと思いますけど。