台湾での新生児スクリーニング直後の酵素補充治療の効果について
遠藤 効果が十分でないとき、臨床症状はどうなっていくのですか。
中村 筋力が落ちてくる人も出てきます。
遠藤 そうすると、呼吸筋も落ちるのですか。
中村 呼吸障害はありませんでした。
遠藤 骨格筋というと、歩行が問題になってきますね。
伊藤 投与量は1 回20mg/kg、隔週投与でずっと続けているのですか。
中村 ずっと続けています。
伊藤 途中で増加したりしていませんでしたか。
中村 この時点ではしていませんでしたが、その後酵素補充療法の投与量を増加した治療効果を検討中です。
遠藤  台湾の新生児スクリーニング直後の酵素補充療法の治療では、自立歩行率が20 ヵ月前に急激に上がっているというデータがありますが、これはすごいですね。
埜中 全例が20 ヵ月までに歩いているわけです。
中村 普通だと1 歳半ぐらいまでに歩くので、それよりも少し遅れがみられます。
埜中 なるほど。しかし、これはすごいですね。
遠藤 歩くというのはすごいですよ。
中村 新生児スクリーニングを行うことで、乳児型の予後は劇的に改善するということが証明されています。
自験例1 について
遠藤 中村先生の自験例1 は今、高校生の女の子ですね。
中村 はい。
遠藤  これは、他院で心拡大を最初に確認したのが、ポンペ病の疑いの始まりだったんですけど、その前、5 ヵ月から9 ヵ月までの間がなかなか疑われなかったのですね。
中村 はい。だんだん筋症状が進んできたということでしょうね。
埜中 それまではほとんど正常の発達をしていたわけですか。
中村 正常発達と考えられていました。
埜中 だけど、CK 値823 というところが何か病気、筋疾患を疑わせるということですね。
中村 はい。
遠藤 残念ですね。早く見つかっていれば歩けていたのにね。すごく頭もいい子なんですよね。
中村  そうですね。結局、進行してしまってから治療を始めても効果が限定的で、症状が進んでいくということなので、早く診断することが大事だということが示されています。
自験例2 について
遠藤  2 例目は1 例目に比べると臨床症状が進む前から治療ができたということですね。最初のCK 異常で気づかれて、心肥大もない状態での治療ということですから、これはもともと軽症の人ということですね。
中村  2例目の症例は発症時期が1例目に比べ遅いですね。
埜中  1 例目は心肥大があって、どうも乳児型と遅発型の移行系という感じですね。
遠藤  その後の治療の状況はどうですか。治療効果というか、歩くのも力強くなってきているとか何かありますか。そこまではまだ難しいですか。
中村 難しいです。
遠藤  こういう人が早く見つかると、もっと早く治療ができる。1 例目の人もそうですけど、日本は台湾のような最重症例が多いというわけではなくて、こういう人が多いのでしょうか。
埜中 多いのかもしれませんね。
確定診断の方法:ろ紙血と筋生検について
遠藤  そうすると、早く見つける価値はもっとありますね。もっといい治療ができるかもしれない。スクリーニングの話ですけれども、ろ紙で測定するということと、その後の確定診断ですが、先生のところでは、確定診断はどういう方法でされていますか。
中村 遺伝子解析です。
遠藤  まず酵素活性をはかって、低い場合はもう一回採血をしてはかる。セカンドろ紙というのはそうですね。それでもう一度低かった人を遺伝子解析するということですね。
中村  以前は線維芽細胞の酵素活性を調べていましたけれども、現在では、遺伝子解析を優先して進めていく方がいいかなと考えています。
埜中  しかし、ろ紙でやって、リンパ球か線維芽細胞の酵素活性をはかって、次に遺伝子解析までやると、かなり時間がかかります。それだったら早く筋生検したほうがよい。筋生検だったらその日に診断できますから、筋生検をもっと優先させてもいいのではないかと言う人もいます。
遠藤  中村先生、埜中先生、そこが大きな問題だと思います。つまり、遺伝子解析をしても、pseudodeficiency・プラス・ヘテロがいるでしょう。それと本当の患者さんを区別して、この時期に診断するには筋生検しかないのではないか。酵素活性測定で線維芽細胞をとるというのは侵襲が大きいけれど、以前はそれしかなかったので頑張ってやったわけです。
中村  乳児型を疑ったときには、すぐに診断を確定しないといけませんが、線維芽細胞は培養しないとはかれない。
埜中 そうなんです。
中村 遺伝子解析も、急いでも1 ~ 2 週間かかるというところだと、もっと早く診断できる方法も必要と考えています。
新生児スクリーニングの課題と対策について
埜中  台湾は、新生児スクリーニングをして3 週間以内、生後11 日とかそれ以内に治療をスタートしますね。何であんなに早く診断できるのですか。3 週間あれば大丈夫なのですか。
遠藤  10 年ぐらい前に彼らとディスカッションしたとき、循環器の先生が来ていました。すぐにエコーをみる、心臓をみて心肥大があるかどうか、心肥大があったら大急ぎで検査するという話でした。
埜中 乳児型には心肥大は必ずありますからね。
遠藤  心肥大があるかどうかだけをとにかく確認すると言っていました。日本の場合、そこまで早い症例は今のところあまりないですよね。
埜中 ないですね。
遠藤  だから、やっぱりちょっと違う。ただ、新生児スクリーニングの体制づくりの中で、臨床観察をどこかで入れるのは大事かなと思います。台湾みたいに、できるだけ早い時期に小児科医が診ると言うこと。
埜中  熊本の新生児スクリーニングを中村先生たちが積極的になさいましたね。今、熊本県の分娩数の何%ぐらいカバーできていますか。
中村 99%ぐらい同意されます。
埜中 そうですか。無料?
中村 最近は有料にしました。
埜中 それでも皆さん、納得するでしょう。
中村 ええ。今度仕組みが変わって、ゴーシェ病とか、ほかの疾患も入れて、12 月から5,000 円になる予定です。
埜中 それならみんな受けますね。
遠藤 先生にそう言っていただくと、もっと受けるようになるかもしれません。
埜中 ぜひやってもらいたいですね。
遠藤  熊本で既に7 万人以上やれているというのは、非常に大きい。まだ見つかっていないですけどね。
埜中  今、うちに来る筋生検が、筋疾患で年間600 ~ 700 ありますが、全部中村先生のところに送っています。今度は筋生検のほうからもひっかかってくる可能性がありますね。
遠藤  西野先生と一緒にやっているものですね。
埜中  あれはすごくいいプロジェクトだと思います。
中村 ありがとうございます。
遠藤  スクリーニングを今までどおり進めながら、今後は筋生検をどこで入れるかを埜中先生にご指導いただきましょう。