台湾・アメリカ・日本での新生児スクリーニングの状況
ポンぺ病の診断・治療のガイドラインと臨床治験結果、そして自験例の紹介を致します。台湾ではナショナルスクリーニングとしていろいろな新生児スクリーニングを始めています。ライソゾーム病ではファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病にムコ多糖症(MPS:mucopolysaccharidosis)、そして重度複合免疫不全症(SCID:severe combined immunodeficiency)もスクリーニングを始めています。その台湾でのスクリーニングの報告では、新生児206,088 例で6 例のポンぺ病患者が見つかりました。
新生児スクリーニングで重症の乳児型ポンペ病の患者さんを見つけたら、台湾では3 週間以内に治療を開始していました。その結果、早期の治療開始により全例が生存して人工呼吸器も要らない経過となりました。一方、臨床症状が出てしまってから酵素補充治療を始めた場合は、亡くなる患者さんも半分ぐらいいるし、ほとんどで人工呼吸器が必要になるという状況でした。アメリカでもライソゾーム病の新生児スクリーニングは、いろいろな疾患で行われるようになってきて、実際にやっているところもあれば、今、準備中のところもあり、多くの州でポンペ病の新生児スクリーニングが行われるようになってきています。アメリカでは、スクリーニングを実施しているほとんどの州で複数のライソゾーム病を一度に調べることが可能なタンデムマスを使った酵素活性測定が行われています。一部では、従来の4MU による蛍光基質を使った測定も行われています。私どもも3 年ぐらい前からポンペ病の新生児スクリーニングを熊本と福岡で行っていて、今年初めまでで7 万人ぐらいを調べていますけど、患者さんはまだ見つかっていないです。熊本では、スクリーニングを始める6 ヵ月前に生まれた子が、最後に症例でお話ししますけど、実は3 年ぐらいたってからポンペ病を発症したという事例がありました。もう少し早くスクリーニングを始めていればという経緯がありました。酵素活性が低い方を調べると、ヘテロの異常を持っていらっしゃって、pseudodeficiency も一緒に持っているという方がいらっしゃいます。
われわれはハイリスク患者を対象としたスクリーニングも行っており、これまで1 人患者さんが見つかったところです。
新生児スクリーニングで診断された遅発型の方をどうフォローしていくか

もし診断されたときにどうするかというのも重要で、台湾のグループの報告、ポンペレジストリーのリコメンデーション、海外のガイドラインなどが参考になります。新生児スクリーニングで遅発型をどうフォローしていくかが大事になってくるだろうと考えています。検査と臨床症状と、心臓などの評価が大事だと考えているところです。ポンペレジストリーで、どんな時期に、どういうものをフォローアップすべきかという記載もございます。

ポンペレジストリー:2004 年9 月に開始されたワールドワイドなインターネットによるポンぺ病登録プログラム。ポンペ病の自然経過、患者の治療経過をモニタリングするプログラム。2009 年9 月までの初期解析には世界28 ヵ国、742 例のデータが集計された。

遅発型ポンぺ病の治療
ポンぺ病の治療に関しては、まずその診断が大事だということです。埜中先生がおっしゃったとおり、まず、酵素活性をはかることで診断する。遺伝子解析を行ったものが診断根拠になっていて、筋生検はしませんというのが現状のようです。  
治療は酵素補充治療が隔週で行われます。補助的な治療として、呼吸器、心臓、食事療法、理学療法や作業療法も並行して行っていきます。ポンぺレジストリーの報告では、約700 名の患者で、1 歳以内に発症した患者さんが4 分の1 程度いるということです。  
ここで遅発型の治験LOTS 試験についてご説明します。遅発型のポンペ病患者さん90 例で、歩行ができる方に対して、治療後の6 分間歩行テストについて評価しました。実際に、治療を行うと有意に伸びることが記載されています。6 分間歩行とは、普通の人がどれくらい歩くか、あまりきちんと書いたものがなくてわからなかったのですが、420 メートルが1 つの目安としてありました。不動産屋さんの距離で「徒歩○分」というのは1 分間80 メートルと計算されています。ですから6 分間で480 メートル。酵素補充療法によって6 分間歩行距離は28 メートル伸びているという結果でした。それなりの改善だと思います。呼吸機能については1 年半位治療を行って、3%ぐらいの%努力肺活量(% FVC)の変化があります。1 年で2%ずつぐらい差が開いていくとすると、10 年ぐらい経てば随分大きな違いになる思います。さらに長期の経過はまだわかりません。
乳児型ポンぺ病の治療
乳児型の治験についてもご説明します。乳児型の患者さん18 例に対して酵素補充療法をしますと、ヒストリカルコントロールが1 年でほとんどの子が亡くなってしまうのに対して、大体2 年で90%以上の子が生存しているということが報告されています。時間がたつと生存率がだんだん落ちていくというのも、2007 ~ 2009 年に報告されていて、治療開始の時期をもっと前倒ししていかないといけないと考えています。人工呼吸器補助なしでの生存も、ヒストリカルコントロールに比べたら改善しています。ただ、まだ十分ではありません。心筋に対する改善はかなりよくて、平均左室心筋重量が正常域まで改善しています。治療開始後1 年ぐらいで心筋重量が正常域まで改善してくるということでした。
台湾での新生児スクリーニングの症例に対する酵素補充療法の効果
台湾での新生児スクリーニングの症例に対する酵素補充療法の効果も報告がなされていて、治療を始めるとCK 値が低下します。ただ、今年、台湾のグループの人たちと一緒に研究会をしたときにも言っていましたけど、時間が経つとCK 値は再び上昇してきます。骨格筋に対する治療効果は、乳児型だと、時間が経つと完全ではないと言っていました。左室心筋重量係数でも改善効果が認められています。心臓に対する効果は乳児型でも十分あると言っていたのと一致する結果です。
埜中先生のお話しにも出てきましたが、新生児スクリーニングで見つけた症例に対する治療効果を示します。治療を始めると、生存率、人工呼吸器フリー、自立歩行などが有意に改善していきます。
[実験例1]:1 歳時に診断された複合ヘテロ接合体患者
それでは熊本大学の自験例を紹介します。この症例は女児で、5ヵ月時にRS ウイルス感染で入院した際、トランスアミナーゼとCK 値が高く、筋緊張低下、心拡大などの心症状も見られたため、大学病院に紹介されました。
当科入院時9ヵ月齢で、トランスアミナーゼとCK値が高かったです。1歳のときの筋生検では、好塩基性の顆粒を含む空胞、筋線維の大小不同、中心核線維の増加という所見が記載されています。酸性α‐グルコシダーゼ活性が低下していて、ポンペ病と診断されています。遺伝子解析も行われて、複合ヘテロ接合体であることがわかり、2 歳からマイオザイムの国際共同治験に参加された方です。一時的に治療薬に対する抗体増加が出現していますけれども、その後は消失しています。ただ、実際には症状が進んで、呼吸筋の低下も進んで、気管切開を4 歳のときに受けています。歩行困難がだんだん進んできて、中学生のころには自立歩行ができなくなりました。現在では車椅子を使われています。
[実験例2]:3 歳時に診断された複合ヘテロ接合体患者
次の症例は初診および診断時が3 歳男児の症例です。2 歳10 ヵ月時に感染性胃腸炎・肝障害で入院した際、AST 値、ALT 値とCK 値が高かったということで、その後もフォローされています。AST 値が180、ALT 値が120 ぐらい、CK 値が1000 ぐらいの高値が持続していたということで、当科に紹介されています。  
歩行獲得までの発達には特に問題ありません。3 人兄弟の末っ子です。全身の所見でも明らかな異常はなくて、肝脾腫もありません。検査では、AST 値、ALT 値の上昇、CK 値の上昇、ミオグロビンとアルドラーゼが上がっていました。埜中先生がおっしゃったように筋ジストロフィーも考えられましたが、ジストロフィン遺伝子の解析では異常なしでした。ポンペ病の酵素活性を測定して低値ということで、リンパ球の活性も低値でした。遺伝子解析を行ったところ複合ヘテロ接合体で、片方が既知の病因となる変異遺伝子、もう1 つは恐らくスプライシング異常を起こす変異だと考えられます。  
胸部X 線写真、心エコー、MRI などでは特に異常を認めていません。治療開始前は、つまずきやすさ、転びやすさがありますが、6 分間歩行で400 メートル近く歩いています。3 歳の子だとこれぐらいかなと思います。階段も上りは手すりを使うんだけど、下りは1 段1 段自力で可能でした。横軸が初診日からの経過月数です。治療を開始して半年ぐらいでCK 値、トランスアミナーゼは低下してきていますが、完全に正常域まで下がっているわけではないです。治療開始後3 ヵ月ぐらいで検査値は改善して、転びやすさも、ご両親の印象ですけれどもあまり転ばなくなったということです。