ポンぺ病はグリコーゲンが主として筋細胞内のライソゾームに蓄積していく病気
ポンペ病という名前は、オランダの病理学者、JC Pompeが1932 年に最初に報告したことから命名されました。本来は、乳児型の重症例に対してその名前がつけられたのですが、その後、遅発型が見つかるようになってきて、遅発例も含めて広くポンペ病と呼ばれています。
ポンペ病は、ライソゾーム酵素の1 つである酸性α - グルコシダーゼ(GAA)の欠損または活性低下を原因とする常染色体劣性遺伝の病気です。グリコーゲンはライソゾームの中に取り入れられ、グルコースに代謝され、エネルギー源となります。ポンぺ病ではそのα- グルコシダーゼという酵素がないために、グリコーゲンはグルコースに代謝されず、主にライソゾームにグリコーゲンがたくさん蓄積していきます。ライソゾームの中に取り込まれないで、筋原線維間にもグリコーゲンが蓄積し、筋線維はグリコーゲンで圧迫され、その機能(筋力)を低下させます。
日本でのポンぺ病の発症頻度は台湾の10 分の1?台湾の発症率が高い理由は?
ポンぺ病の発症率は世界的に見ると、大体人口1,000,000 人に2.5 人位が平均的な値になっています。ただ、台湾で実施された新生児スクリーニングによりますと、遅発型と乳児型を合わせて18,108 人に1 人と非常に高い値になっています。台湾にポンぺ病患者が多いのか、あるいは新生児スクリーニングで診断が早く、的確な数字が得られたからなのか、それはわかっていません。
では、日本ではどうかというと、日本でのポンペ病の正確な発症頻度はよく分かっていません。現在患者数は300 ~ 400人ではないかとかと言われています。私のところで筋生検をして診断した例と、ほかの筋疾患、たとえばデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD: Duchenne muscular dystrophy)の頻度と比較してみると、ポンペ病の頻度は1,000,000 人に0.2 ~ 0.3人です。台湾の10 分の1 位しかいないことになります。
筋ジストロフィーと鑑別がむずかしい遅発型ポンぺ病
ポンペ病は乳児型と遅発型の2 種類に分類されています。乳児型は心肥大、肝腫大、筋力低下を主症状として、大体生後数ヵ月以内に発症します。人工呼吸管理をしなければ、24 ヵ月以内に80 ~ 90%が心不全あるいは呼吸不全が原因で死亡します。
遅発型をさらに小児型と成人型に分けることもありますが、小児型と成人型が2 つの山に分けられるわけではないので、最近ではこれを一緒にして「遅発型」と言っていることが多いです。
発症は、小児期ですから12 ヵ月以降です。病変は主に筋肉に見られて、重度の心筋症は非常にまれであるとされています。症状は筋力低下を主とし、何歳でも発症します。最近では、72 歳で診断がついたという論文報告もあるのですが、これは気がつかなかっただけではないかと思います。そういうふうに、子どもから大人まで非常に幅広いのが遅発型です。
乳児型は、先ほどお話ししたGAAの酵素が全くありません。しかし、遅発型の人はある程度残存酵素があります。その残存酵素の多少によって、症状が違うのではないかと言われています。
その筋力低下や、罹患筋の分布などは診断的特徴がありません。たとえば筋ジストロフィーで一番代表的なデュシェンヌ型筋ジストロフィーなら男児に限られるとか、腓腹筋の肥大があるとか、いろんな特徴があるのですが、ポンぺ病ではこれといった特徴がありません。クレアチンキナーゼ(CK)値も高いですし、いわゆる肢帯型筋ジストロフィーとの鑑別が難しいところです。
乳児型ポンペ病は実は、誕生直後はあまり異常がない
病型について少し詳しくお話しします。乳児型ポンペ病は実は、誕生直後はあまり異常がありません。数ヵ月、早いときは1 ヵ月あるいは2 ~ 3 ヵ月で筋緊張低下、筋力低下が現れます。筋緊張、筋力低下の現れた子どものことをFloppy infantと呼んでいます。特に、首の据わりが遅いため、引き起こし反応をみると首がついてきません(head-lag)(写真1)。そして、この後、発達が全く見られず、哺乳困難、発育不全が出てきます。呼吸器ももちろん侵されますし、一番大切なことは、胸のレントゲンを撮ると、発症したときにはすでに必ず心肥大があります。さらに、心肥大だけではなくて、肝臓あるいは脾臓などの内臓の肥大も見られるようになります。治療しないと2 歳までに80 ~ 90%が死亡するというのが、乳児型ポンペ病の特徴です。
遅発型は筋ジストロフィーより低めのCK の高値、呼吸筋の障害、大腿部の筋肉が強く侵されることが特徴
遅発型は進行性の近位筋の筋力低下があります。体幹及び下腿、特に上肢よりも下肢が強く侵されます。下肢でも大腿部が強く侵されるのが特徴で、歩行異常だとか側弯症が出てきたりします。クレアチンキナーゼ(CK)値が高い。近位筋の筋力低下、特徴のない筋疾患の様相を呈していてCK 値が高いとなると、誰が見ても筋ジストロフィーです。ところが、CK 値は筋ジストロフィーのように何万とはならないで5,000 ぐらいの高値の人がいるので、筋ジストロフィーとの鑑別が一番大切になります。特徴のない筋ジストロフィーのことを、我々は肢帯型筋ジストロフィーと呼んで分類しています。肢帯型筋ジストロフィーの多くは、呼吸筋の障害がないのです。ところが、遅発型は呼吸機能検査をしてみると、呼吸筋の機能がほとんど全員低下している。これが鑑別になると思います。特に、先ほど言ったように、大腿部の筋肉が強く侵されることが特徴の1 つです。
ポンぺ病の診断は現在はろ紙血が主流
10 年以上も前では診断は「筋生検」によって確定されていました。その特徴は、筋線維の中のライソゾームにグリコーゲンがいっぱい溜まっています。病理で見ると非常に特徴的です。ライソゾームはちょっとモヤモヤッとした感じですから、そのモヤモヤッとしたような空胞がいっぱいあるというのが診断的特徴で、あまり見逃すことはありません(写真2)。成人例になってくると、だんだんモヤモヤが少なくなって、ちょっと診断に困ることはありますけど、今まで誤診したことは1 例もありません。
日本のポンペ病患者の筋生検は、ここ10 年ぐらいで一切なくなりました。全部ろ紙血でスクリーニングしています。大人で筋生検で診断することはありますが、乳児型では1 例もありません。それだけ診断に対して理解が深まってきたのだろうといつも感心しています。以上がポンペ病の概略です。


ポンぺ病の診断・治療などについては「厚生労働省難治性疾患等政策研究事業」ホームページ
http://www.japan-lsd-mhlw.jp/lsd_doctors/pompe.html)にも掲載されています。


ポンペ病の診断チャート(クリックで別ウインドPDFが開きます)