「一生診る治療」から「一緒に診る治療」へ
小野寺  私たち親も、モチベーションが上がらないんです。どうせ生きている間に新薬は出ないし、もう間に合わない。なのに何で私は患者会をやっているのだろうというところにぶつかるわけです。逆に、社会に出られるような患者さんほど患者会に出てこないのです。そこがなかなかもどかしいところです。
先生の言われた、療育の先生を顧問にするのもすごくいいアイデアだと思います。ただ、私たち患者の親は診断してもらった先生やゴーシェの専門の先生に、ずっと診てもらいたいという願望があります。なのですぐ療育の先生に切りかえられないというのはあります。
遠藤 一生診てもらいたいという気持ちになりますよね。
小野寺 みんなそういう思いです。専門の先生がいなくなっちゃったらと。
遠藤  それは患者さんにとって自然なことです。ただ、今、小児科の中で問題になっているのは、一生診ていくのか、いろいろな人と一緒に診ていくのか。ほかの先生も一緒に診ていったほうが、患者さんにとってよりよい一生が送れるということをもっときちんとしていきましょうというのはあります。
小野寺 奥山先生の、療育の先生を顧問医にというのは思いつかなかったです。やります。
奥山 顧問医にしなくても、先生をお呼びして、みんなで話を聞いて相談する。その先生方も励みになるんです。
遠藤 患者さんと小児科医の関係から言うと、患者さんの側も医者離れをしないといけない。
小野寺 そうですね。
遠藤  奥山先生が言ったように、別の医者を見つけてこいというのは、ある意味正しいことなんです。一生診てもらえる医者、例えば内科の先生とかを本当に見つけてくることができたら、それにこしたことはないと思ったほうがいいのかもしれない。
衞藤  内科の先生というのは、こういう遺伝的な病気についてはあまりよく知らないんです。内科は今は縦割りで、例えばファブリーで腎臓と心臓となっている。「あっちに行ってください、こっちに行ってください」と言われる。
遠藤 ファブリーの専門家は内科にはいませんから。
岡田 特に、大人になったら、腎臓は腎臓内科。
衞藤  私は、一番長い人は30 年以上の患者さんもいて、70 歳を過ぎた人もいる。患者さんを長い間フォローしているということは医者冥利に尽きるし、自分でできない部分はもちろん専門家に紹介するのが、コーディネーターとしての小児科医の役割で、ずっとやっていくのが本当は一番いいと思っています。私はそういうふうにして三十数年間、大人の人がほとんどですが、患者さんを診て、問題別に、眼科へ行ってもらったり、耳鼻科に行ってもらったり、循環器に行ってもらったりして、ゴーシェ病でも同じように診ているわけです。
内科の医師はある意味、専門的になっています。小児科医はジェネラルに診られるジェネラリストなんです。そういう意味では、小児科医の先生は優しさを持っている。
遠藤 アプローチが違うのでしょうか。
衞藤 「ゴーシェ病を診てくれ」と言われたら、「とても診られない」と言われちゃう。
遠藤 そうですね。
奥山 でも、Ⅰ型は診られる。
遠藤  衞藤先生にしても、埜中先生にしても、自分の専門の患者さんを診ながら、何か起こったら、内科の先生とかに適宜きちんと送る。それが大事ですね。
埜中  例えば呼吸がおかしくなったり肺炎になったら、近所の先生に紹介するというルートをあらかじめつくって、何かあったらそこに行けばいいようにしています。そうでないと、例えば筋ジストロフィーの患者さんが急に悪くなって救急車に乗せられると、どこの病院も断るんです。「うちの病院では筋ジストロフィーの患者さんを診たことがない。だから、来られても治す方法がない」と言う。そんなことはない。生命救急についての対処法は同じです。私は、先天性ミオパチーで子どものころから診ている患者さんがいて、結婚して子どもを産んだ人までいますけど、妊娠から分娩までバックアップする医師を必ずつけています。それが大切ですね。
小野寺 今、23 区にはあおぞら診療所があって、訪問の前田先生がいるので、酵素補充療法は在宅でやっています。
遠藤  それはいいですよね。前田先生みたいな先生は十数年前はいなかったわけだから、そういう人が増えてくるのはすごく大事だと思います。それは各地そうだと思います。今、「小児慢性特定疾患制度」が新しくなって、相談支援事業とかそういうのをやらないといけなくなっているので、前田先生のあおぞら診療所など、今までいなかった人たちが参加して、いろんなことができていくようになると思います。頑張ってください。
患者登録制度JaSMIn でも20 歳以上の登録が4 割に
遠藤 では、奥山先生、患者登録制度について。
奥山 患者登録制度JaSMIn は大分充実してまいりまして、現在登録数は1250 人です。これに参加することが、1つの研究参加であるということを皆さんにご理解いただきたいと思います。
この前、ちょっと統計をとってみておもしろかったのが、4 割ぐらいが20 歳以上なんです。ファブリーは9 割は成人でした。ALD もゴーシェもそうなんですけど、ライソゾーム病は半分以上が大人の方。でも、それは多分、小児科の先生が診ておられます。
ライソゾーム病をスーパーバイズするのは小児科の専門医でいいのです。ただ、その先生も、療育の分野とかどうしても苦手なところがある。成育医療センターには在宅の先生がいるからいいのですが、いない病院も多いと思うので、そういうところは自分で開拓していくか、患者会でクチコミで教えてあげるのがいいのではないかなと思います。
土日診療や患者会の重要性をもっと声高に
遠藤  予定時間をちょっと過ぎてしまいました。これだけは特に言っておきたいということが患者様の側からあったら、一言ずつでいいですので、お願いします。
岡﨑  愛知県でポンペを診ているのは長久手の愛知医大となっていたんです。でも、長久手の愛知医大を知らない人は意外と多いのです。結構遠いですし、名古屋だと八事日赤だとか市大病院とか名大とか、そういうのは皆さんご存じなので、拠点病院はそういうところにしていただいたほうがいいかなと。
それと何とか土日診療していただけないか。平日しかない。中学、高校になってくると、授業の関係があります。平日に酵素補充療法に行くと、単位がどうかなというのもあります。
遠藤 わかりました。
小野寺 私も、土日診療していただきたいですね。
岡田  患者としての話ですけど、僕は、診断がついた時は香川で1 人目だったので、何をしたらいいのかとか全然情報がない段階で始まりました。それで患者会があるのを知って、たしか最初に参加したのは熊本でした。患者会のセミナーがあって、その時に遠藤先生に初めてお会いしたのです。そういった経緯もあって、患者会に行くことによって情報が得られます。香川は東京みたいにたくさん患者さんを持っておられる先生がいるとか情報がすぐに共有できるという環境ではなくて、香川は今でこそ、2 家系くらい見つかっていますけれども、まだ数十人もいない段階です。
患者会で新しい薬が出るという話が伝わってくるかもしれないし、例えば僕らだったら、痛みが出た時にどうしているのかとか、学校はどうやって行っているのかとか、そういう話のできる場が患者会だった。そこでいろんな先生にもお話を聞くことができるということで、患者会というのはすごくありがたい存在だと思っています。
小野寺  先生方にお願いがあります。患者さんに患者会に入ることを勧めてほしいです。患者会があることを発言してほしいです。「ありますよ」と言うのではなく「入ってください」と強制的な位に。あっても入らない人がいますので。
遠藤  まだ皆さん、話したいことがいっぱいあるとは思うのですけれども、今日は貴重なお話をありがとうございました。