ゴーシェ病の重症患者さんへの酵素補充療法は延命治療ではない
小野寺  うちの患者会で去年、新生児でゴーシェ病がわかった患者さんから問い合わせがありました。生まれたばかりの場合、NICU の乳幼児の先生方が診てくださるらしいのです。その先生に、ゴーシェ病とわかった時に、「治療しますか」と聞かれたらしいんです。酵素が延命になるからと。延命治療をするのか、しないのかと。今まで聞いたことがない。ゴーシェ病がわかったら、当然のように酵素補充療法をする時代じゃないですか。それが、ここ最近、延命という扱いで酵素を考えている先生がいらっしゃると聞いたのです。そういうのは先生方の中でどういう話をされているのですか。酵素は延命だからするしないというのは、患者が判断するものなのですか。私も初めて聞いてすごく驚きました。
衞藤  そういう捉え方をする先生もいると思うんですけど、そういう言葉を言う先生はあまりいないですね。あまり聞いてはいないです。外国では、そういう言い方をする場合もあるかもしれないけど。教科書的には、Ⅱ型では酵素は効かないということで、一般のドクターは、本を見て、Ⅱ型は特に新生児の重症型には効かないけれど治療しますか、しませんか、2 つの選択肢がありますよという言い方をされたと想像します。
遠藤 新生児室でドクターが診てゴーシェを疑うというのは、相当の重症の患者さんだと思います。
小野寺  はい、すごい重症の患者さんです。
衞藤 多分、致死型の患者さんですね。
小野寺 親としてみれば、そう言われることはものすごく信じられないことなので。
遠藤  その場でストレートに言われるのはなかなか……。埜中先生は、こういう臨床の経験が大変豊富でいらっしゃいますね。
埜中  そんなに豊富ではないです。ゴーシェ病に限らず、生まれた時にものすごく重症な筋肉の病気の方がいらっしゃいます。代表的なのは脊髄性筋萎縮症(ウェルドニッヒ・ホフマン病)で、乳児期に自立の呼吸ができなくなります。日本は今、そういう重症な人も全て人工呼吸器をつけます。昔は手足の筋力低下がくると、自分の意思が伝達できなかったけど、今は指先だけでも動けば表現できる機械もいろいろ出てきたし、その子が生きるということは、やっぱり意義がある。そういう考え方が多くなっています。すなわち、生まれた時にものすごく重症でも、諦めないで何とかしようというのが日本の今の流れだと思います。ですから、いつ治療が可能になるかわからない。そうしたら、その子どもの命を縮めることは、やはり倫理的にちょっと合わないと思います。ただ、アメリカあるいは中国では医療にお金がかかるので積極的ではありません。開発途上の国では乳児期から呼吸不全がある子どもには人工呼吸器も使わないでしょう。
奥山 ゴーシェ病の中でも胎児水腫型ではないかと思います。
小野寺 それからは治療を普通にさせてもらっているみたいで、よくなっているみたいです。
遠藤 今は治療を受けられているのですね。
小野寺 はい、治療を受けています。
衞藤  胎児水腫型でも酵素補充療法をして長生きしている方もいます。生まれて1 週間、2 週間のうちに亡くなる患者が多いのですが、1~ 2 年長生きしている人もいます。そういう意味では、いろんなやり方があると思います。
遠藤  埜中先生が今言われたウェルドニッヒ・ホフマン病は、昔は人工呼吸器をつけちゃいけないと言われていたのです。
埜中 そうです。
遠藤  だけど今は、いかにいい人工呼吸器をつけるかという考えに変わってきていますから、時代で変わっていくんです。
埜中  そうですよね。そして、生きているうちに治療法が出てくる可能性が多いので、やはりできるだけ長く生きて欲しいという傾向になっています。
衞藤 Small Molecule は新しい治療法でかなり成果が出ているみたいですね。
埜中 脊髄性筋萎縮症では出てきていますね。昔は諦めていた。
遠藤 すごい進歩だと思います。
衞藤 歩けるようになったりする可能性だってあるとのことです。
埜中 今は、注射したら、えらくよくなってきていますね。
衞藤 歌のモデルなんて、ピョンピョン跳び回っている。
埜中 だから、突然治療法が出てくるので将来のことはわからないですね。
遠藤 受容体結合型の治療とか遺伝子治療とか、いつ変わるかわからないんですよね。
埜中 それがいつ開発されるかわからない。
遠藤  先ほど先生がおっしゃったように、一日でも長生きしてほしいと思う以上は、やっぱり治療をやるしかないかなと思います。
埜中 そうですね。
遅発型ポンぺ病に対しても早期治療が必要か?
遠藤 岡﨑さん、埜中先生のお話を受けて、何かコメントがありましたら。
岡﨑  ポンペ病の場合は、現在、アルグルコシダーゼアルファしかないという形ですけれど、うちの患者会で、幼稚園の小さい子は、早い段階から酵素補充療法が実施できています。お母さんたちの話を聞くと、跳んだりはねたり、マラソンもできるようになっているから、すごく効いていますという言い方ではないですけれども、いいですよということで喜んでいるのです。ただ、将来が見えないので心配だという声はあります。
うちの子どもの場合だと、跳んだりはねたりマラソンしたりというのは一切できなかったので、やっぱり早いうちに酵素補充療法ができるというのは、期待ができるのであれば、新生児マススクリーニングで、遅発型であっても早期治療をできるようにしていただいた方が、非常にいいのではないかなと思います。うちの息子の場合、23 年ぐらい前にポンペ病とわかったのですけれども、その時は筋ジストロフィー95%、ポンペ病5%の確率と言われていたのです。
衞藤 今は何歳でしたっけ。
岡﨑  今は24 歳です。ずっと治療法がなくて、中学2 年生になってから、酵素補充療法を始めまして、今は、寝たきりではないですけれども、3 カ月ぐらい前から、家の中を手すり伝いで歩けていたのが、もう歩けなくなってきたということがあるので、そういうお子さんにも効く薬を何とか作っていただきたいです。
これも人生かなとは思うのですけれども、やはり小さいお子さんに早い段階で治療をしていただいたらいいと思います。23 ~ 24 年前というのは、ポンペ病とわかっても、インターネットで調べても出てこないし、調べる方法もあまりなかったのです。今はいろいろなことがわかってきています。治療薬もすごいスピードで開発されていますので、これから期待できるのではないかと考えています。
埜中  確かに、乳児型で早く発症したものは早く治療した方がより大きな効果がある。そして乳児型で治療後にマラソンができる子どもがいるというような話が出てきたのです。日本では遅発型でも、ある程度大人になった人でもみんな治療しています。目に見えてよくはならないけど、進行が遅くなったなど有効性を実感する人が多いです。私の患者さんは、今までは病気が毎年毎年進んでいた。しかし治療を受けるようになると進行がゆっくりになって、止まっているような感じがする時もあると述べられています。遅発型にも効果はかなりあるという論文もあるのです。呼吸状態が何年間たっても悪くならなかったということもあるので、是非希望を持ってもらいたいです。
それから、アルグルコシダーゼアルファの改良型というか、マンノース-6- リン酸という受容体にもっと効率的に取り入れられるように、構造を変えることも試みられています。
奥山 治験が今年中に始まります。
埜中 遺伝子治療ももちろん出ると思うので、やはり希望を持って過ごしていただきたいと思います。
確かに、新生児スクリーニングは重要ですが、日本全国で一斉にはできないらしい。今は遠藤先生の熊本県は、生まれた人を全員スクリーニングしている。今度愛知県全体で始める予定ですね。
遠藤 愛知県は4 月以降に始まるとのことです。
埜中 東京は、奥山先生のところで生まれた人は全部スクリーニングをやっています。
奥山 東京は成育医療センターでやっています。1 万人以上やりました。
埜中  かなりカバーしてはいますが、まだ限られていますね。全国レベルにしたいと思いますが、なかなかバリアがある。
遠藤  バリアはもちろんありますし、ドクターの考え方もそれぞれ違いますから、ストレートにはいかないです。病気ごとに考え方が違う。それは治療法の進歩も含めて、みんなが勉強していかないといけないところだと思います。治療法があれば、みんな賛成なんです。これは間違いないです。完全な治療法はないというのが、実は医学の進歩です。インスリンが発明されて、糖尿病の治療は終わったかというと、そんなことはないですよね。糖尿病の治療の話はそこから延々と続いて、まだ解決しないじゃないですか。酵素補充療法は糖尿病に対するインスリンに比べたら、もっと頼りない治療です。そういった意味では、治療の研究は限りないという感じがします。
ファブリー病の認知度を上げることが重要
遠藤 ファブリー病に関しての治療などに対して、岡田さんコメントをいただけますか。
岡田  ファブリー病は、ほかのライソゾーム病のゴーシェ病やポンペ病とそもそも違うのは、急激に死ぬリスクが少ないことで、今日のお二人のお話を聞いていると、立場がすごく違うというのを考えさせられます。ゴーシェ病やポンペ病では、重篤な状態になりえるし、なるべく早期に新生児スクリーニングをして、早期診断早期治療するのがより大事だと思います。ファブリー病であっても、患者側に立てば治療があるなら早くやりたい。
特に私の場合、診断がついたのがちょうど10 年前、16 歳の時でした。それまで小学校、中学校の頃は、変な熱が出るし、熱がすごく上がるし、めちゃくちゃ手は痛い。いろんなクリニックとか病院にかかるたびに、「先生、こうなんですけど、何か変ですよね」という話をしてきましたけれども、ずっとわからなかった。「体質かもしれないね」と。胸のあたりとかも、盛り上がってはないですけど、被角血管腫があって、健康診断のたびに毎回「これは何なの」と言われて、「いや、僕もわかりません」と。「先生がわからないのは僕もわからないです」と思いながら過ごしていたわけです。
仮に治療がなかったとしても、少なくとも、今まで「変だね、変だね。何かおかしいよ」と言っていたのが、診断名がしっかりつくことによって、「ああ、そうだったんだ」という話になります。小中学校で毎年、入学とか担任の先生がかわるたびに、「体調なのか体質なのかわからないんですけど、こういった症状が出るので、よろしくお願いします」と話をしていたのが、診断がつくことによって、「実はこういう病気で、こういう症状が出るので」と、しっかり説明もできる。今も職場で「こういう病気ですので」という説明がしっかりできる。もし診断がついていなくて、「夏がだめなんです」とか「疲れやすいんです」とかという話を一般企業でしても、「いや、おまえ、そんなの」と言われる場合の方が多いと思うんです。そこできちんと診断がついていれば、社会的にもある程度、理解されると思います。
奥山 その痛みと発汗障害が診断の根拠になったのですか。
岡田 そうです。あと、直接的に診断になったのは、僕の場合は足の潰瘍です。
奥山 家族歴は特になかったのですか。
岡田  母の兄が同じような症状で、昔からずっとわからなくて、いろんな大学病院に行ったり、ずっと「おかしいよね」と。
奥山 おじさんの診断がついていたから、診断されたのですか?
岡田 逆です。僕がスタートで。
奥山 その診断をつけられたというのは、すばらしいドクターですね。
岡田  皮膚科の先生です。母は逆に、自分の兄を見ていたから、とりあえず冷やせばいいとか対症的なことは一応知っていた。熱が出た時は冷やしなさいとかそういう話で僕はずっとやっていたのですけれども、「何か変だよね」という話はしていました。
奥山  基本的には、ファブリー病の認知度が上がることが重要です。以前は、小児科医が診断するのは難しい病気でした。今は治療法があって、予防的効果が強い治療法があります。小児期から見つけるためには、医師国家試験に入れるとか、とにかく医者を啓蒙教育することがすごく大事です。先生ご自身がお医者さんであることを世の啓発にどんどん使っていただくことによって、早期診断で患者さんを助けることができるのではないかなと思います。
岡田  患者さんの中には、遺伝病ということもあって、隠される方がどうしても多いんですけど、僕の家族はみんな逆に、どんどん言っています。
奥山 それが大事だと思います。