中枢への効果の評価はどのように行う?
遠藤 まず、岡田さんからご質問や感想などをお願いします。
岡田 2017 年2 月にサンディエゴで開催されたライソゾーム病シンポジウムでの新しい治療法についての話ですが、患者から見ると新しい治療法の話は夢がある、これからいろいろ開発されていくということがすごく魅力的でした。医師の立場でみた場合、実際にどれだけ効果が出るかをこれからじっくり見ないといけないと思います。
その中で中枢神経の話で、血管脳関門(BBB)を超えて酵素製剤を届けようというのがありましたが、ヒトの場合はどう効果判定するでしょうか。
奥山  それは、治験のエンドポイントとして何が求められるかということですが、development test をやります。ムコ多糖症の場合は神経学的退行といいまして、発達指数がどんどん低下し、発達年齢が退行していきます。それが治療によって抑えられるかを見ることが求められています。しかし、相当数の患者さんが必要になるし、長期のStudy が必要になるため、治療行為に対する評価を短期間で行うための評価項目(サロゲートエンドポイント)としてバイオマーカーによる評価を行います。
ムコ多糖症の場合は、髄液中の蓄積物質である主にヘパラン硫酸の量などです。それだけで治療薬として認めてもらえるかどうかはまた別の問題です。
岡田 毎回生検するわけにはいかないですからね。
奥山 もちろんそれは無理です。
衞藤  今回、サンディエゴで賞をもらったミネソタ大学のElsa Shapiro 先生が、MLD やALD などの中枢神経障害に骨髄移植をした時の評価法として、細かいスコア表をつくる研究をしていました。彼女が髄注とか今後の遺伝子治療もそうでしょうけれども、中枢神経系の評価方法をいろいろな形で提案して、論文にも書いています。
奥山  どのような発達検査を何歳の子に使ったらいいのか、病気によって発達検査を何歳までにやるべきか、そういったことを世界的に標準化しようという会議がありまして、そこに日本からは私が行きました。ミネソタ大学のElsa Shapiro 先生がそれを中心的にやっているところです。
患者会としても、ゴーシェ病の神経症状に対する治療の進歩を期待
遠藤 小野寺さんからもお願いします。
小野寺  うちの子どもは寝たきりで13 年介護していますが、神経症状の重篤化する患者さんたちのために、一日も早く治療薬をと願っています。私たちが求めることは、神経症状を抑える治療をもっと研究していただきたいということです。患者さんの状態がよくなるような、緩和できるような研究もあわせてお願いしたいです。
あと、成人型の患者さんになると重複障害が出てくるので、就労の問題とか、人生に大きくかかわってきます。それが私たち患者の声です。治療薬ももちろん早く進めてほしいのですが、あわせてそういうところにも目を向けていただきたい。
それと、新生児マススクリーニングにゴーシェ病を是非入れていただいて、早期治療につなげていただけたらと思います。
遠藤  衞藤先生、今の神経全体の症状の治療は対症的なものが中心になると思うのですけれども、その治療法もいろいろなところで研究は進んでいるのではないでしょうか。
衞藤  神経障害というのは、病気によってメカニズムが違うのですけれども、ゴーシェ病の場合、特にⅡ型(乳児型)は結構早い時期から神経症状に障害が出てきます。そのメカニズムの1 つは炎症です。ゴーシェ細胞がサイトカインを出して、サイトカイン血症となります。それに伴って、神経細胞が障害されます。グリオーシスといって線維化する。そういう意味で、かなり初期にやらないと、Ⅱ型(乳児型)ゴーシェ病の治療は難しいと思います。Ⅱ型でも幅があります。致死型の胎児水腫を来して、セロファン状の皮膚になってしまい、生後すぐ亡くなってしまうような患者さんから、2 ~ 3 歳まで障害を持ちながら頑張っている患者さんもいます。そういう患者さんの治療となると、酵素製剤の髄注という話よりも、複合障害、けいれん、嚥下・呼吸に対する治療など、サポーティブセラピー(支持療法)が非常に大事です。
小野寺さんも大分苦労されていると思うのです。親も休みもとれなくて、自分がストレスの塊みたいになってしまうところもあるでしょう。そういうことを含めて、全体をサポートできるようなチーム医療体制をどう作っていくか。お子さんの治療も、もとへ戻すとかそういうことも難しいですし、今より悪くしないで済むという意味では、髄注も必要なのかもしれません。しかし、なかなか難しい。早期診断のための新生児スクリーニングで、ゴーシェ病の場合、いつから治療したらいいのかというのもあるし、酵素が頭に入るような治療ができた場合にも、いろいろ問題があるかと思います。ライソゾーム病だけではなくて、いろんな代謝異常症、難病の患者さんには、複合的なチーム医療体制をどう作っていけるかということが重要かと思います。
ゴーシェ病の重症患者さんでも全員、酵素補充療法を行うのが原則
遠藤  ゴーシェ病の場合は、慈恵医大の衞藤先生と井田先生が日本のかなりの患者さんに目を光らせていただいていると思うのですけれども、見つかった患者さんには全員、酵素補充療法をやるというのが原則ですよね。やらない時代と今と変わったことはありますか。Ⅱ型の患者さんも治療を受けていますね。
衞藤  Ⅱ型も皆さん、受けています。Ⅱ型の患者さんには、一応脳には移行しないことを納得してもらって、酵素補充療法を受けています。酵素が一部脳に入っている可能性はあります。井田先生のデータを見てもわかるように、酵素補充療法を受けたことによって、Ⅱ型の患者さんは以前より平均7 年ぐらい長生きしていますから。
遠藤 それは大きな改善ですね。
衞藤  治療を受けないと2~3 歳までには亡くなります。頭から下の細胞あるいは臓器、肝臓、脾臓が非常によくなって、呼吸もある程度楽になるし、全身的な力が出てくるという意味では、酵素治療はⅡ型の患者さんでも延命効果が出ています。これをやっているのは日本だけです。ほかの国はデータを持っていません。外国では神経には効かないということで、治療対象になっていません。
Ⅲ型でも、延命効果を含めて治療効果が出ていて、日本のⅠ型は、アジア人はユダヤ人と比べて重症型ですけど、亡くなっている患者さんは非常に少なくなっている。Ⅰ型に対する酵素補充療法の臓器障害に対する効果も出ていますし、骨に対しても早期治療すれば効果がある。ゴーシェ病の治療効果は外からもわかりやすいし、酵素製剤に対する抗体も少ない。治療効果は、ゴーシェ病の場合、かなり証明されている部分があるのではないかなと思います。
遠藤  この前、エジプトのⅢ型の7 割以上はL444P の患者グループで、かなり効果があるというのが出ていました。外国でⅡ型、Ⅲ型の治療をしたというのは、多分初めてです。効果が出ているのは間違いないというところですかね。