ポンぺ病の患者会とタイアップした診療の在り方について
遠藤  今日は患者会とタイアップした診療について、患者さん方にお聞きしたいというのが1 つの目的でしたので、まずは埜中先生のポンペ病のことから伺います。埜中先生は前から多くの活動をされていましたね。
埜中  皆さんも出席しておられるポンペ病研究会の時に、患者さんとのセクションを必ずつくっています。それが非常に良い結果を生んでいます。
患者さん同士でいろんな悩みがあると思うんです。そういう悩みを、患者会をつくってお互いに話し合うというのは、大切だと思います。いろんな筋疾患の患者会で、ネットを使って交流しています。ポンペ病家族の会でも昨年作られたホームページを是非活用いただきたいと思います。我々も、それを読んで、何が足りないのかなというのが勉強になります。
ポンぺ病は酵素補充療法が始まってちょうど10 年です。現在約90 人が治療を受けています。10 年間で患者さん1 人1 人がどんなふうに変わったかというのを知りたいです。そういうのを調べる場合、患者会の協力が必要なので、岡﨑さんにいろいろと協力をお願いして、一緒に患者会を盛り立てていく必要が出てきた時期ではないかなと思います。
岡﨑  今までは、ポンペ病の患者会ということでずっと動いてきて、薬の承認の陳情に行ったりしたわけです。薬の話が出た時だけの集まりという会だったので、日頃は連絡があまりないという形だったのです。それではいけないということで、NPO 法人を立ち上げたわけです。最近は、若いお母さんから、実際に経験している僕たちのところに連絡が入り、こちらからアドバイスをするようにしています。そういうやり取りは必要だと思います。
それから、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症の患者会同士の連絡もよくとるようになり、いろんな仲間ができました。顔を合わせたら「こんにちは」と、みんな和気あいあいでいろんなことが交流できるようになったのは非常によかったと思いますので、やはりこれからは、経験した者がいろんなことを伝えてあげて、伝承していくことは重要ではないかと思います。
ゴーシェ病患者会からの診断治療に対する要望アンケート
遠藤 小野寺さんから、まとめていただいたゴーシェ病患者会の意見のご紹介をお願いします。
小野寺 今回の座談会のお話をいただいて、せっかくなので、私の意見だけでなく、会全体の意見をと思って集めました。
私の話になってしまうのですが、うちの子どもは歩行困難と嚥下障害から始まったのです。それが1 歳で、外食している時に嚥下障害で喉を詰めまして、チアノーゼを起こしているのを、その場に偶然にいらしたドクターが見て声をかけてくださった。「病気かもしれないから、大きな病院に行ったら」と言われて、運ばれたのが聖路加だったのです。そこで診断されました。もしあの時、その先生の言葉がなかったら、病院には行かなかったと思います。そのまま窒息して、亡くなっていたのかと思うと、病名がついて亡くなるのと、病名がわからないで亡くなるのとでは全然異なります。病名がついてよかったと思いました。
❶異変を感じてから診断まで時間がかかる。早い診断を
小野寺  アンケートにも載せたように、おかしいなと異変を感じてから、診断がつくまで、皆さん結構時間がかかっているのです。Ⅱ型の患者さんは重篤化するのが早い。Ⅰ型、Ⅲ型の患者さんはすごく時間がかかる。でも、「おかしいな、おかしいな」という不安の中で生活していることのほうがつらくて、難病という診断がついたことが、生活のスタートになるのです。なので、できれば早く診断がついてほしいというのが大きな意見です。
❷症状が起こらないようにするためにも早期治療、早期発見が大事
小野寺  そういうことも含めて、去年のゴーシェ病の日に、乳幼児健診でなるべく早目に病気がわかるようにということで、全国の保健所に啓発活動をしているのですが、先生方はゴーシェ病を診ることが少ないので、乳幼児健診にはなかなかひっかかってこないのです。特にⅠ型の患者さんは骨の症状が出てくるのですが、骨の症状は酵素補充療法をしても治らないと聞いていますので、そうなると、就労など生活にかかわることになるので、骨の異常という症状が出てから治療するのではなくて、できれば症状が出る前に治療して症状が起こらないようにするためにも早期治療、早期発見が大事だと、皆さん、言っていらっしゃいました。発症するまでに時間がかかるじゃないですか。いつ起こるかわからない。新生児マススクリーニングにゴーシェ病を入れるのはまだ未定だと聞いたのですが、命にかかわることなので、新生児のうちからわかるようなことをぜひしてほしいというのが皆さんの意見でした。
遠藤 これは何人ぐらいの意見ですか。
小野寺  うちの団体は今60 人いて、全員の回答は得られなかったのですが、Ⅰ型の患者さん8 人、Ⅱ型の患者さん9 ~ 10 人、Ⅲ型の患者さん5 ~ 6 人から集めました。皆さん、早くわかったほうがいいという意見です。わかるまでの不安な気持ちの方が大きいんです。何の病気なのだろうと。
病気がわかってからの方が、治療薬がなかったとしても、患者会などいろんな動き方ができるわけです。そういう意味で、早期発見は大事だと思います。
❸専門領域を連携した部隊のような先生方を育成してほしい
遠藤 経過を見ていく上でのサポートとか、全身管理とかそういったところでは、要望などは何かありますか。
小野寺  Ⅱ型やⅢ型が重篤化すると、筋緊張、けいれんによる亜脱臼、脱臼や骨折を起こすので、そういった二次的障害をうまく抑える治療をお願いしたいです。小児科の先生に言っても「私の担当は代謝だから」「私の担当は脳神経だから」「私は血液だから」となってしまいます。
遠藤 つらいですね。
小野寺  それはとてもつらいことです。ライソゾーム病の中で、そういうそれぞれを連携した部隊のような、神経障害まで最後まで診てもらえるような先生方を育成してほしいと考えます。
遠藤 専門医の専門性をより生かした患者さんへのサポートですね。
小野寺  遺伝子解析により、さらに重篤化する場合はわかっているわけですよね。はやく亡くなることもわかっているわけですから。
あと、診断が早くわかれば、私たち親の人生がすごく変わります。出産の第二子、次の子どもにもつながるので、親の人生も、先生方のさじかげんで全てが変わってしまうので、そこを考えてほしいです。
遠藤 小野寺さんは最初、聖路加病院に行かれて、その後はどの先生に診ていただきましたか。
小野寺  権威の先生がいらっしゃるから慈恵に行きました。転院するのは精神的に負担なため、できれば診断を受けた聖路加で治療を続けたかったのですが。
医師も患者会の情報を共有する
遠藤  奥山先生は、私たち先天代謝のグループの中では患者会のサポートとかオーファンドラッグの開発とか、いろんな意味で患者さんの近くで活動していらっしゃるので、奥山先生から、今の皆さんのお話に対するコメントなりをいただけますか。
奥山  ポンペ病は私が顧問をさせていただいています。ポンペ病は、随分前から、患者会の先代からずっとサポートさせていただいて、どっちかというと、新薬の開発とかそういう情報提供が多かったように思います。去年、ポンペ病研究会で岡﨑さんと星さんの2 人には、むしろ私たち医者が勉強になりました。自然歴というか、自分たちのお子さんのことを話していただいて、我々の気づかないことを気づかせてくれた。それは本当によかったと思うのですが、ああいうのが大事であって、患者会は、そうしたことを共有する。患者会が「我が子は秘密で」というのでは話にならないんです。そういう自分たちのお子さんの情報を共有して、そういう症状があったらどうすればいいかと、ピアカウンセリングができることが患者会では大事です。
それと正直、医者はある意味、無力です。特に、専門医であるほど。むしろ療育病院の先生の方が、患者さんにとってはずっと役に立つ場合があると思います。
小野寺 そうですね。
実践的な医師を活用してもらう
奥山  むしろ僕はそういう実践的な医師を紹介したり、患者さんがそういう情報を得て、患者会で共有するといったことがいいのではないでしょうか。正直言って、私の方が教えられているところがあるんです。
別にライソゾーム病に限ることはなく、重症心身障害児で呼吸不全のある病気のお子さんをいっぱい診ていらっしゃる献身的なドクターは、いろんなところにいらっしゃいます。そういう人を逆に患者会が顧問にして、相談に行くのもいいのではないかと。ムコ多糖症の場合、八雲病院の石川先生をお招きして話を聞いたこともあるのですが、小児神経から療育に行っている先生方を大事にされるといいのかなと。
将来の子どものために新薬の開発を患者会も一緒に協力してほしい
奥山  患者会がもう1 つやるべきことは、将来同じ病気で生まれる日本人の、日本人に限らず、次世代のために自分たちは何ができるか。その時に初めて新薬が出てくると僕は思います。新薬の開発を一緒にやる。その治験に参加することが、皆さんにとっての研究協力です。正直言って、岡﨑さんや小野寺さんのお子さんには、新薬があってもあまり効果はないかもしれない。でも、次世代には確実に効果があることを考えると、そこまでやって初めて患者会の先輩として後輩を育てられるのかなと感じるんです。僕はそれを後ろから「やれ」と言っているだけのずるいヤツなのかもしれない。ムコ多糖症の皆さんと一緒に活動させていただいていることによって、時には政府に対する、あるいは製薬企業に対する意見をいう団体にもなりますけど、ご家族の幸せというものに何らかのサジェスチョンができればいいなと思っています。
それと乳児型ポンペ病は、確実に新生児マススクリーニングでなければだめです。この前亡くなりましたが、神奈川県のご兄弟例で僕は経験しています。上のお子さんは、乳児型ポンペ病で10 歳まで生きました。そういうのを見て、これは確実だなと私は身をもってわかったわけです。一方、ゴーシェ病の場合は、研究が進まないというのもあるのですが、まだちょっと早いのかなという気は少しします。