治療ファーストそしてスクリーニング
先天性代謝異常症の治療は大きく変わりつつあります。古典的スクリーニング対象疾患の治療は栄養食事療法から始まりましたが、最近では移植と酵素補充が治療の中心になってきています。将来に目を向けるとシャペロンなどの薬物治療、臓器細胞移植、酵素補充療法へ進み、次の段階として遺伝子治療へ向かっているということが言えます。脊髄性筋萎縮症では核酸医薬品の次は遺伝子治療が米国では認可されています。
メープルシロップ尿症においては肝臓移植は推奨される治療になっていますが、さらに遺伝子治療の計画も進んでいます。フェニルケトン尿症の酵素製剤はもうじき市販されます。これら疾患は日本では1977年に開始されたいわゆる古典的新生児マススクリーニングに含まれる疾患です。当初は栄養治療が有効とされましたが、治療の研究が必要ということが分かって、新しい治療が研究されています。メチルマロン酸血症の肝臓移植が日本で初めて行われてから25年が経過しました。この間、タンデムマスを用いたいわゆる拡大新生児スクリーニングが世界的に普及し、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症はスクリーニングで発見し、必要であれば肝臓移植を実施することが先進国では標準治療の一つになりつつあります。2019年にはメチルマロニルCoAムターゼmRAMを用いた新しい治療の臨床試験が遺伝子治療よりも先に米国で開始されました。拡大新生児スクリーニング以降にスクリーニングへの取り組みが始まっているライソゾーム病では、ポンぺ病、ゴーシェ病など酵素補充療法が普及したことがスクリーニング開始の理由になりました。その後、経口薬も利用可能になり、次の段階として一部の疾患では遺伝子治療の臨床試験が始まっています。

画期的な治療の出現は疾病の診断体制の革新を求めています。そして、新規治療方法が開発された疾患の新生児スクリーニングへの取り組みは目の前の大きな課題になっています。難病治療における新生児スクリーニングの効果は実証実験で確認する必要があります。この点ではポンぺ病や脊髄性筋萎縮症の新生児スクリーニングと治療の研究が欧米、台湾で実施され、早期治療が予想以上の成果を上げています。

治療ファーストは難病患者にとっての普遍的な利益です。そして、治療から考えると新生児スクリーニングの普及が必須になる。そのようなことを感じました。そこで今回の特別講演とシンポジウムを聴いて、今後の進むべき道を個人の意見としてまとめてみました。

(1)現行のろ紙を用いたスクリーニングの中で新規疾患への拡大を考える。(2)各自治体・医師会などが主宰しているスクリーニング実施のための地域委員会において、新規スクリーニングの対象疾患と方法について検討する。(3)検査実施施設の整備・選定そして必要な検査費用の負担のありかたについて検討する。(4)地域単位のスクリーニングに対応できる専門医による迅速な治療実施とフォローアップ体制を整備する。(5)このような準備の上に試験研究を実施する。という道筋を考えてみました。これには小児科医と産科医が協力し、各地の大学病院、小児病院の小児科医がリーダーとなって、地域ごとに取り組みを始める時期に来ていると考えました。この冊子が皆様の参考になれば幸いです。