SMAの病型分類
新生児スクリーニング(NBS)の重要性という観点から、小児の脊髄性筋萎縮症について解説する。
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は脊髄における前角細胞(運動神経細胞)の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病である。
0型(胎児発症)、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型(小児発症)、Ⅳ型(成人発症)まであり、型の数字が大きいほど緩徐進行性である。
SMAはⅠ~Ⅲ型を最高到達運動機能と発症年齢で分類する。Ⅰ型の最高到達運動機能はnever sit、Ⅱ型はnever stand、Ⅲ型はstand & walk aloneである。
筋生検像では、Ⅰ型・Ⅱ型早期ではlarge group of small fiberといった筋肉グループをなす萎縮像と共に正常に近い構築がみられるが、Ⅱ型後期・Ⅲ型など罹病期間の長い症例では筋の構築が保たれず、Ⅲ型は特に、筋ジストロフィー様の脂肪変性結合織増生も起きている。このような筋病理初見からも早期診断・早期治療のためにはNBSが非常に重要と考える。
SMAは進行性の運動機能障害を示し、特にⅠ型は乳児期に呼吸不全を生じる
Ⅰ型は0~6ヵ月齢で発症し、乳児期に呼吸不全で死亡する。floppy infantを呈し、呼吸障害が進みbell-shapedがみられる。肋間筋が障害され、それに対して、横隔膜がしっかりしているため、奇異呼吸(paradoxical respiration)が起こり、CO2が溜まる。NPPV、気管内挿管、気管切開が必要となる。下垂手(wrist drop)もみられ、専門家が見れば臨床的に診断しやすいが、実際の診断時にはかなり進行した状態であり、即、人工呼吸器という段階になってしまうことも多い。症状が出る前に診断することが重要である。
Ⅱ型はnever standで背中が丸く支えなしに座ることもできるが、徐々に支えが必要になる。関節拘縮、側弯が起こる。賢く目つきが強いことが特徴で、適切な医療の下に20歳を過ぎて生存することもある。
Ⅲ型は立ったり歩いたりすることができる。横から見ると、腰椎前弯(lumbar lordosis)などの筋ジストロフィーと間違えやすい姿勢があり、よく肢帯型、ベッカー型と間違えて診断されることがある。CK値は筋ジストロフィーほど高くない。Ⅲ型は診断されるまでに15~20年を要し、遺伝学的検査まで行き着かないことも多い。外反足(Valgus feet)が診断として非常に重要で、賢い方でX脚や外反足があればSMAを疑う。
日本におけるSMAの疫学調査では1万人当たり0.6人
日本におけるSMAの疫学調査を実施し、2017年1年間の発生率と有病率を調査した。その結果、発生率は1万人当たり0.6人、1年間で約60人の発生率となる。有病率は10万人当たり1.16人、Ⅰ型で0.3人であった。遺伝学的検査は78.1%で実施され、Ⅰ型33%、Ⅱ型43%、Ⅲ型20%、Ⅳ型1.4%であった((厚)神経変性疾患領域における基盤的調査研究班「日本における脊髄性筋萎縮症の臨床実態に関する調査」調査期間2018/1/30~3/31)。
核酸医薬品の髄腔内投与が保険収載されて、さらなる治療の発展が始まっている
SMAの遺伝子はSMN(survival motor neuron)遺伝子といい、SMN1SMN2という逆位重複(inverted duplication)の形で存在している。SMN1が責任遺伝子である。上流にH4F5、SERF gene、下流にNAIP geneがある。セントロメア側コピーにも同じような構造のものがあるが、塩基の違いが少しあるため、その塩基の違いを利用して治療が研究された。
健常人の場合、SMA蛋白質はSMN1からエクソン7をスキップしない状態でfull lengthの蛋白質が大量に合成できるが、SMN2からはエクソン7をスキップしてΔ7がかなりたくさんつくられ、full lengthの蛋白質は 10%位のほんの少しだけが合成されている。
SMAの場合、SMN1が機能しないために、SMN2のほんの少しのfull length蛋白質が合成されるだけの状態である(図1)。そこで、核酸医薬品(antisense oligonucleotide:ASO) が開発され、ASOによってエクソン7のinclusionを起こし、full length mRNAの状態が活性化しfull length SMN蛋白質を増やす治療が開発され、ヌシネルセンが保険収載された。
ヌシネルセンの治療は早期診断・早期治療が有効
SMAの自然歴に、生後2カ月でparadoxical respirationが起きたところでヌシネルセンの治療を開始したあるⅠ型患者の発達歴を重ねてみると、非常に良好な経過をとることが判明した(図2)。今、起立できて歩行訓練をしている状態である。ヌシネルセンは若いほど有効だが、年齢が進んでいても効果のあるケースもみられている。いずれにせよ、SMAの治療は、発症後の治療より発症前の治療が有効で、その意味でもNBSは重要である。
アメリカではNBSが始まり、日本でもNBS実現による発症抑止が必要
SMAのNBSの費用は、1新生児当たり1~5ドルと安くなっている。SCIDを併用すると0.7ドルとも報告されている。アメリカでは評価機関に相当するRUSPがSMAを新生児マススクリーニングに入れるべき疾患として取り扱い、2019年8月現在では12州で実施されている。日本では、神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座疫学分野 教授 西尾久英先生が非常に安価で有効なNBSを開発されており、実現できると考えている。
バイオマーカーによる有効性評価モニタリングも重要
SMAの治療薬の有効性の評価は、CHOP INTEND、HFMSE、WHO運動マイルストンなどがあるが、一律の評価ができない。そこで、我々はバイオマーカーが必要と考えている。それが核内構造体としてのSMN蛋白質である。SMN蛋白質は、特に白血球系、リンパ球系の細胞の核内に複合体として存在している。SMN抗体はコントロールと比較してかなり光ることがわかっている。これを測定することで治療の有効性を経時的に数値として見ていくことができると考えている。
近い将来、NBSのシステムを確立し、早期診断早期治療が実現され、経時的に有効なバイオマーカーなどでモニタリングして、健康な成長発達を促す。こうしたことが日本においても非常に重要と考えている(図3)。
Discussion
遠藤  フォローアップが大事とのことだが、治療効果を判定するバイオマーカーとしてSMN蛋白質の発現を解析しているが、将来それを標準化するか?
斎藤  はい。それが理想的といえる。