台湾におけるスクリーニングの現状
最近の台湾の出生数は年間20万人以下になっており、これをカバーするのに全土に3つのスクリーニングセンターがある。スクリーニングで陽性の所見が出た新生児は精密検査と治療を行うことができるセンター(confirmation center)の1つを受診するように勧められる。台湾でのスクリーニングのカバー率はほぼ100%になっている。また、生後8日までに結果を得るようになっている。しかし、このようなカバー率と迅速な検査が達成されるレベルに到達するには長い期間が必要だった。もともと台湾での古典的な新生児スクリーニング(NBS)は1984年に開始された。当初はスクリーニングのカバー率は6%で、その後94%のカバー率に達するのに約10年を要した。
新しい国家健康保険制度が1995年に確立され、つづいて希少疾患法(Rare Disease Act)が1999年に成立した。このことで、台湾に希少疾患治療用医薬品を導入することが可能になった。ちょうどその頃、タンデムマス検査法をNBSに導入した。これが最初の10年に続く、次の10年の我々のスクリーニングセンターの歩みである。
その後、我々はポンペ病の酵素補充治療薬の治験に参加する機会を得た。そこで、患者の治療予後を改善するためにNBSを実施したいと考えた。このような背景があって2005年にポンペ病のNBSを開始した。同時に二次検査で必要な診断のためのバイオマーカーを開発した。
また、重症複合型免疫不全症(SCID)のためのDNA検査も開発した。早期診断を実現するために、採血を生後3日以内に実施し、その後2日以内に検査センターに届け、スクリーニングセンターでは3日以内に検査結果の報告を出すように決定した。その結果、現在では生後8日までに98%のサンプルで結果報告が可能となっている。
ポンペ病のNBS
これまでのNBSで当センターで診断したポンペ病患者は20名である。すべて、出生時あるいはスクリーング検査陽性所見後に診察した生後1週から10日の時点で肥大型心筋症を示していた。現在これらの患者さんたちは全員生存している。対照的に臨床所見から診断した症例では、わずかに半数が生存しているだけである。またこれらの生存例も人工呼吸器装着が不要なのは20%だけとなっている(Fig.1)。
その他のスクリーニング
当センターでは多項目診断プラットフォーム(Multiplex platform)を用いることで多くの疾患を同時にスクリーニングすることが可能になった。現在、ライソゾーム病ではポンペ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症Ⅰ型、ムコ多糖症Ⅱ型、の検査を1つの反応系で行い、結果が同時に出るようになっている。我々はSCIDのDNA検査もMultiplex platformで開始した。DNAスクリーニングでは変異分析が必要になるが、SCIDの変異分析では、変異の同定能力を向上させている。
我々がSCID患者を発見した時のケースを紹介する。我々は担当医師にある新生児がSCIDであるという診断を生後1週以内に通知した。その赤ちゃんはその時すでに発熱しており、医師はすぐに抗生物質の投与を開始した。遺伝子分析でCD3E遺伝子変異を検出し、SCIDが確認診断され、生後2ヵ月時に造血幹細胞移植を実施することができた。
バイオマーカーの重要性
バイオマーカーも重要である。NBSの診断後は、患者さんが重症で早期発症型か、あるいは後期発症の軽症型かについても知る必要がある。その際、高度のマーカー異常を示している場合は重症型のリスクが高いことを反映するようなバイオマーカーによる検査を追加することが必要である。例えば、当センターのゴーシェ病のNBSではバイオマーカーであるGL-1を検査することが可能である。もし、これが異常に高値の場合、遺伝子型が不明であっても、患者さんはおそらく重症の2型あるいは新生児型であることが予測できる。それほど高値でない場合、この赤ちゃんは軽度の3型あるいは1型の可能性がある。
治療の長期予後について
治療の長期予後は重要である。我々が望んでいることは、赤ちゃんをスクリーニングし、診断し、適切な治療を行い、そして両親に「治療プロトコールに従っていけば、予後は大変いいです」とお伝えすることである。しかし、例えばポンぺ病は当センターのライソゾーム病の新生児スクリーニングで最も長い歴史があるが、現行の治療にはいくつかの限界があると考えている。その1つは筋肉に対する治療効果で、もう1つは神経症状に対する治療効果である。これらの治療上の問題は今後も改善していかなければならない課題である。
結論
NBSはそれだけで独立した存在ではなく、幅広いチームワークで実施するものである。よいスクリーニングとはタイミング(いかに早く結果を得るか)と信頼性が最も重要であると考え取り組んでいる(Fig.2)。もう1つの重要な部分は治療で、治療可能な疾患にとっては短期そして長期の予後が治療を選択するうえで重要である。また、フォローしながら、いつ治療を開始すべきか、そして症状のない患者さんをどのようにフォローするか、また両親に何を伝えるか、さらに症状のある患者さんと両親に何を伝えるか、という種々の問題がある。これらの点を考えながら進めていくことで、我々はすべての赤ちゃんとその家族にとって良いNBSのシステムを作り上げることができると考えている。
Discussion
中村  台湾では出産のときに希少疾患の追加のスクリーニングについて、どの病気のスクリーニングを受けるか選択しなければならないと思う。しかし、ポンぺ病、SCIDあるいはSMAについて両親はあまり詳しくは知らない。これらの疾患のスクリーニングの選択をご両親はどのような考えに基づいて行うか?
Chien  一般人に対する教育が重要である。新聞やパンフレットを使って、出産をひかえた両親に情報を提供し、母親が妊娠した時の教育でも情報を提供する。よく理解してくれていると思う。このようなことを進めることでNBSで疾患を選択する条件は整っていると考えている。
中村  台湾はNBSに関しては特別の国だと思う。なぜこのように導入できたのか?
Chien  それには幾つかの理由があると考えている。第一に、リーダーのHwu教授が我々を率いていることがあげられる。スクリーニングラボを動かし、スクリーニング方法と必要性について指導している。第二には容易に新しい検査項目を追加できるシステムが台湾にはある。幸運なことに政府は疾患の追加には反対しない立場を取ってくれている。政府は予算の援助はしないが、その追加項目が両親と赤ちゃんの利益になる限りは、我々が新しい項目を追加することを支援してくれている。