ライソゾーム病・ペルオキシソーム病の早期診断の重要性について
初めにライソゾーム病・ペルオキシソーム病の早期診断の重要性について、お話しします。 「早期診断がなぜ必要か」というと、病気が進行すると、治療に反応しないことが増えていきます。早期あるいは発症前に治療を始めることにより予後が著しく改善する可能性があります。
ただ、残念ながら、治療法が確立されているのはライソゾーム病の一部です。例えば、ムコ多糖症の中でも酵素補充療法などの治療法があるものとないものがあります。治療法が確立されていないものに対してもスクリーニングをすべきかどうかは議論のあるところです。
一方、スクリーニングについて、親御さんの立場からすると「診断がつかないことへの不安」と、逆にお子さんが病気でないと思っているときに「あなたのお子さんは病気です」と言われることへの不安など、いろいろな課題があります。ただ、早期診断・早期治療した場合、遅れて診断・治療した場合に比べて予後が非常にいいという病気が基本的にはスクリーニングの対象になると考えています。
ハイリスクスクリーニングの重要性
ハイリスクスクリーニングは初期の症状から病気の可能性を検討する場合を指します。 まだその病気を明らかに疑うだけの根拠はないけれども、とりあえず鑑別診断してみようというのがハイリスクスクリーニングの考え方です。
典型的な症状が出そろった段階で診断が確定し治療が開始された場合、既に病状が進んでいて、治療効果が限定される可能性があります。そこで、手遅れにならないうちに病気をみつけることが重要です。
成育医療研究センターでは、2009年からポンペ病のハイリスクスクリーニングを開始しています。2009年、2010年は2、3人でしたが、2014年は5人、2015年は3人を診断しました。これは大変意義のあることと思います。
早期診断としての新生児スクリーニング
新生児スクリーニングは病気特有の症状を全く認めない新生児の段階で病気の可能性を検査するものです。
日本では、甲状腺機能低下症、フェニルケトン尿症、有機酸脂肪酸代謝障害など19疾病が新生児マススクリーニングの対象として公費負担(採血料など一部負担あり)で検査が実施されています。
検査の方法ですが、かかとに小さな傷をつけ、血液が出てきたところに専用のろ紙をつけ、直径1センチぐらいに血液を浸み込ませます。その血液の浸みたろ紙から、いろいろな検査物質を測定します。ライソゾーム病・ペルオキシソーム病は、まだ公共事業としての新生児マススクリーニングの対象になっていません。

 
アメリカ、台湾などの新生児スクリーニングの現状
米国では州ごとに新生児スクリーニングの対象疾病を決定しています。ライソゾーム病であるムコ多糖症Ⅰ型、ポンぺ病、ALDなどが新生児スクリーニングの推奨疾患として掲載されています。
台湾あるいは米国の一部の州でファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型、ポンペ病に対する新生児スクリーニングが実施されています。米国ではミズーリ州が一番多くの病気で実施しています。ALDに関してはニューヨーク州やペンシルベニア州で実施されています。 台湾では新生児スクリーニングは日本より一歩進んでいます。少なくともライソゾーム病・ペルオキシソーム病に関しては先進国と言えるでしょう。
検査費用については、米国は州ごとに補助の程度に違いがあり、無料の州から被検者一部負担、全額負担の州と、さまざまです。台湾は、以前から行っているフェニルケトン尿症、甲状腺機能低下症は無料で、新しく始めたライソゾーム病は有料(4,000円位)で実施、韓国ではライソゾーム病は全額被検者負担で実施しているようです。